圧搾
別のHPに掲載していた物をこちらへ移しました。内容は変わらずです。
私の手の中には果物が在る。それは美しい球体で果皮は照明により輝いている。顔の近くに寄せれば其れは微かな柑橘類特有の香りがし瑞々しがあった。
顔から遠ざけ再び手の中に在る果物を一瞥してから、この果物を持ってきた男に声を掛けた。
「それで? これをどうするの?」
「……握り潰して欲しいんです」
フローリングの床に正座する男は、太腿の上で両手を固く握り俯いたままくぐもった声で言った。
その消えてしまいそうな声で解放された秘めたる願望は、特殊性癖の中では比較的人口が多いと思われる物だった。
「へぇ、でもこれそのままじゃそう出来ないよ?」
「ぇっと、はい、なので…皮を剥いた状態でお願いします」
「OK 皮は普通に剥いて良いの?」
「出来れば…目の前で剥いてください」
「うん 良いよ」
私はソファーから立ち上がり、床に居る男の前まで行き蹲み込んだ。
「よーく見ててね。目を逸らしちゃ駄目だからね?」
「はい」
漸く顔を上げた男は言動に反して意外と男前な顔立ちをしていた。そしてその顔は期待に胸膨らませていることが容易く想像つくほど紅潮していた。
果物を男の目の前に掲げた後、ゆっくり男の膝下へ持っていき皮を剥き始めた。
最初はヘタの反対に親指を差し込み、其処を起点に果肉を潰さないよう注意しながら1枚1枚剥いていった。
大小様々な大きさの果皮が男の服の上へ無造作に落ちていく。その度に男は何かを堪えるように喉の奥から声を出し体全身を震わせていた。
皮半分を剥き終わり熟れた果肉が露出したところで反転させ、反対側の皮を剥こうとした瞬間、力が入った指先が果肉に食い込み一部を潰してしまった。潰した瞬間に飛散した果汁は男の顔と服を汚し、手から滴る果汁もまた男の服を汚している。
「ぁっ う…!」
「ごめんね。大丈夫?」
一瞬逸らしていた目を男の方へ戻すと、羞恥と興奮で歪めながらも、ある種の絶頂を迎えたような顔をして体を震わせていた。
そして男は、情欲の滲む瞳で私を見つめて言った。
「あの…あの…もう剥くのは大丈夫なんで…もう潰してください」
「良いの? まだ半分あるよ?」
「うぅ…うぅ…良いです。だから…お願いします」
「そっか…じゃあいっか…」
そう言った瞬間、私は何の躊躇もなく果物を握り潰した。まるで内臓を潰したような音を立てて潰れる果肉と、それと共に溢れ出る大量の果汁は色は違えど血液を彷彿させた。
男はそんな果物を食い入るように見つめながら、声にならない声をあげながら身をよじらせたり頭を抱えたりしている。
私は汚れていない方の手で男の頭を撫でたながらこう問いかけた。
「気持ちいい?」
「気持ちいいっ 気持ちいいっ!」
茹で蛸のように顔を赤らめ、涙を流ししゃくり上げながら答えた男の健気さに口元が緩んだ。
「良かったね」
「はいぃっ ヒック! ぁぃぃっ ウッ!」
男の頭を撫でながら少し落ち着くまで待ち、落ち着いたタイミングを見計らったところで私は新たに切り出した。
「じゃあ、最期にコレを食べようか。気持ち良くしてくれてありがとうって思いながらね?」
私はこの時の男の顔を、きっと暫く忘れないだろう。
Fin
こういった事が実際起きた場合、私はきっと男のように握り潰された果物へ感情移入し自己投影します。