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参、見面

 子華(ズーホア)はおそるおそるやってきた女官たちに指示し、衣裳や髪飾り、化粧道具を用意させた。

 最後と思い装った衣裳は命を燃やし尽くしたかのように赤い。一旦四神を下がらせ、彼女はその赤い衣裳をためらいもなく脱ぎ捨てた。湯の為にも、桀王の為にももう二度と装うことはない。四神の為、と言えば聞こえはいいが結局は自分の為である。

(花嫁なんて言ったって、いつ殺されてもおかしくないし)

 神、というのは子華にとって恐ろしいもの。特に神話には荒ぶる神が多く、人の営みなど一瞬にして灰塵に帰してしまう。

(せめて()が生きている間ぐらいは機嫌を損ねないようにしないと)

 子華は薄緑色の衣裳を選び、金の縁取りのある薄絹を羽織った。髪飾りや宝飾品も見事なもので、全て四神を意識して作られたように映る。髪を結い上げてもらい、抱き上げられることに邪魔にならない程度の宝飾品を身に付ける。化粧については少しだけ考えて、今回だけは(タン)の前に出る時にしていたように化粧し直した。

 己の魅力を最大限に引き出せるよう鏡を磨かせる。仮にも四神の花嫁として王の前に出るのだ。内心はどうあれ堂々としていなければならない。

 そうしてやっと納得がいったところで四神を呼び戻した。

「女子というのは装いに時間がかかるものなのだな」

「……美しい」

「そなたは先ほどのままでも十分美しかったが、今は光り輝いているようだ」

「……子華……」

 反応が微妙に違うことが面白い。白虎は苦笑しているように、青龍は感嘆の声を上げ、朱雀は口説き文句を紡ぎ、玄武は何を言ったらいいのかわからないようである。だが彼らの脇に控えている紅浜(ホンビン)はなんの反応も示さなかった。これぞ仕える者の鏡だろうと彼女は思う。夏の王宮にいた時は、みな桀王と彼女の顔色を窺ってびくびくしていた。当り前の反応だが、それにいらいらしていたことも確かだった。

「紅浜、貴方にはなんの感想もないの?」

「……美しいとは思いますが。申し訳ありませんが我ら四神の眷属は花嫁様を含む人に反応することは基本的にございません。ですのでお似合いかそうでないかの判断しかできませぬ」

 意地悪く尋ねると、真摯に返された。やはり人ではないらしい。

「基本的に、ってことは例外はあるの?」

「それは……花嫁様には関係ありません」

 この眷属も面白いと彼女は思う。できるだけ長く付き合っていきたいものである。

「王からの遣いを待たせております」

 紅浜の言葉に、そういえば王に目通りするのだということを彼女は思い出した。四神を見回し、小首を傾げる。

「どなたが連れて行ってくださるのですか?」

「我が連れて行こう」

 そう言って当たり前のように子華を抱き上げたのは白虎だった。彼女はその逞しい胸に寄りかかる。四神は嫉妬深いという。なので抱き上げられて移動することは想定内だった。

 彼らは四神宮を出ると王の遣いに先導させた。四神宮にはそこに仕えている者たち以外は出入りできないようになっているようだった。

 王宮の造りはそれほど複雑ではなかった。ただ奥に行けば行くほど厳重になっており、装飾もそれほどはない。斟鄩(しんじん)(夏王朝末期の都)の王城は目がちかちかするほど装飾過多であった。回廊の柱、天井などありとあらゆるところに彫刻や絵があり、悪趣味ですらあった。だがそれは、指示されていたとはいえ彼女が望んだことだった。

(四神宮も飾り付けてもらおうかしら)

 商の国庫を空にしてやるのも面白そうだと彼女は思った。そうしてやっと目的地に着いたらしい。

「子華、疲れてはおらぬか?」

 白虎の低い声に彼女は「大丈夫です」と答えた。抱き上げられて移動しているのに疲れているも何もない。そうでなくても白虎の腕の中は安定していた。

 重厚な扉が開かれる。どうやらここが王の謁見の間らしい。奥にゆったりとした椅子が設置されており、そこに彼女は湯の姿を認めた。

(履様……)

 少しやつれてはいるようだったが、その顔はかつて愛した男と酷似していた。



注:

見面 「出会い」という意味です。

斟鄩 夏王朝末期の京。洛陽付近の伊洛平原にあったとされている。

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