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夕焼けショコラティエ  作者: 香ノ月 十佳
第一章 新しい恋人たち
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みっしょん1

 五組の教室は向こうの棟にあります。

 あっちです。


斎藤さいとうという人はいるかな?用事があるんだが」

 大きな熊さんが襲撃しにきました。


「は、はい……ってどちらさま?」

 入口近くの女生徒さんがびっくりしてます。

 びっくりもします。


「一組の笠薙かさなぎという」

 背が離れていて話辛いのか、少しかがんで目線を合わせ、女生徒に低い声で話しかける熊さん。

 それ、きっとやったらだめなの。


「あん……はっ!い、今呼んできます……さいとーくん、さいとーくーんっ!」

「「呼んだ?」」

 振り向いたのは教室の中の二人。


「あのー、どっちの斎藤君ですか?」

 呼びかけた女生徒が、笠薙君に問いかける。

「むぅ……」

 熊が唸っている。


「あー、えーと斎藤和孝さいとうかずたか君って人の方です。えへへ」

 熊さんの陰からぽんやり少年フミくん。


「あ、それなら俺だ」

 標準的な背格好の男子生徒が、なんだか様子を伺いなら歩いてくる。

 大丈夫、教室ここは禁猟区だから。

 熊、襲わないから。


「こんにちは、一組の衣津々(いつづ)フミといいます。こっちの大きいのが笠薙静真かさなぎしずま君です」

「よろしく」

「う、うん……斎藤和孝さいとうかずたかです。それで、えっと一組の方がなぜこちらに?」


「ここでは少し、場所を変えて話したい」

「え!」

 まさかの表へ出ろ!


「あ、大丈夫ですよ、安全ですよ!」

「その言い方が、なお怖いです!どうしてここじゃダメなんですか!?」

 そうですね。


「女の話をここでしていいのか?」

「女の話?」

 可愛い女の子の話。


「まあまあ……ちょっとね、ちょっと話すだけですから、すぐ終わります。ね、お願い?」

 可愛くお願いするフミ君……君、男の子。

「あ、うん。少しだけなら」

 フミくんは人当たりいいのです。そうなのです。


「気を付けてね、斎藤君」

「生きて帰って来いよ」

「先生には報告しといてやる!」

 クラスメイト達の暖かい心遣い。しみますね!



 女の子たちがよく使う軽食ラウンジの隅っこのほうで……。

「そ、それでお話ってなんですか?」

 気になるよね?


「斎藤君、彼女っている?」

「い、いきなりなんですかっ!」

 動揺もします。


「僕はいるよー?とっても可愛くて優しくて元気で、いい匂いがして、ぎゅってすると柔らかくて幸せになれるんだ」

 フミくん、いつものとおりです。


「そうだ、斎藤……彼女はいるのか?」

 熊さんも聞きます。


「な、なんでそんことを話さないといけないんです?よく知らない、一組のあななたちに」

「いや、斎藤……彼女とはいいものだ。嫁の作る料理はうまいし、その声を聴くだけで愛おしくなり、ずっと一緒にいたい、幸せにしたいと思える存在だ……いないのか?」

 笠薙君も大概です。


「い、いませんよ!なんですかっ!惚気にきたんですかっ!?」

 どう聞いても彼女自慢ですね。


「そう、焦るな。直に貴様もわかる」

「うんうん。幸せは結構近くにあるもんなんだよ、ところで斎藤君。一組の佐藤さんって知ってる?佐藤莉理花さとうりりかさん」

 お、自然に話をもっていくフミ君スマート。


「ああ……家が近所で、初等部からずっと一緒だしな。莉理花りりかがどうかしたか?」

「おお……既に名前で呼び合っている。これが幼馴染……」

「なんだ、ハードルは低そうではないのか?」

 熊さん、まだ早いよ。


「いやー、最近佐藤さんがずっと眠そうにしててね、大丈夫?って、本人と話をしてたところ、斎藤君の話がチラっと出てきたので、何か知らないか気になってね」

 そうだったっけ?話し上手なフミくん。


「病気とかか?莉理花は、特に病気はしてないはずだぞ?ああ……ただ弟や妹が多いから、その相手で疲れてるんじゃないかなぁ」

「斎藤も、弟たちがいると聞いたが?」

 いい合いの手だ。

 すぱぁん。


「ん?ああ、莉理花から聞いたのか。まぁ、うちは弟と妹が一人ずつだから楽なもんだ。莉理花のところは弟三人に妹四人の七人いるからなぁ。朝、保育園に連れていくだけでも大騒ぎしてるよ?」

「お手伝いをしてくれているように聞いたけど?」


「成り行きというか、見ていられないというか。莉理花って体が小さいだろう?それでいてあの子供たちの面倒見てっていうのは無理があると思うんだ。おばあちゃんたちが手伝ってくれてはいるが、保育園に預けない子たちの面倒をおばあちゃんが見なきゃいけないらしいし。それで、保育園組と家事をお母さん代わりにやっているんだよ」

「壮絶だね」

 確かに。


「そうなんだよ。うちの母さんも、朝は莉理花を手伝って二つの家族で一緒に食事したりしてるんだ。それだけの人数いるとまとめてやった方が楽だから」

「家族ぐるみなんだ」

「言ってみりゃそうか」

 思ったよりスケールが大きかったお手伝い。


「まぁ、でも朝だけだからなあ。夕方保育園に迎えに行ってからは、うちの母さんもうちのちび達をみなきゃいけないから、別になるし。そうなると、手が空いた俺が莉理花の手伝いをしに行くことになるんだ。といっても、あのやんちゃなちびっこたちと遊ぶくらいだけどな」

 面倒見がいいのですね。


「なるほど……それは」

「いつもうちの佐藤が世話になっているようだ……礼をいう、ありがとう」

 熊さんの中で、クラスメイトは大事な家族です。


「あ、いや、別に特にそんな大したことはしてないよ……話っていうのはこれでいいのかい?」

「ああ、あと一つだけ。斎藤君ってどういう女の子が好きなの?」

 ぼいーん。




 軽食ラウンジの少し離れたところで、耳をそばだてる選ばれし女の子達。


「なるほど……」

 頷き、ちゅーちゅーとストロベリースムージーを飲む小悪魔こと川瀬皆八木雪那かわせみなやぎゆきなさん。


「いい人ね」

 そっとドライイフルーツを摘まむ古風美少女の島澤優子しまさわゆうこさん。


「いい人で終わらせてはいけないのよ!」

 クッキーを頬張る、天使で小悪魔の三橋由美みはしゆみさん。


「そのとおりね」

 おさげ眼鏡が絶好調な工藤三美奈くどうみみなさん。


 ユキナちゃんが集めたのは、四天王?


「でも、お互いの距離はすごく近いんだよね」

「近すぎて、却って気付かないのじゃないかしら」

「そうね、でもそこを除けば悪いことではないわ」

「ええ、一緒にいる時間が長いというのはいいことよ」

 活発な意見交換。


「でもどうしよっかー、斎藤君の好きな女の子のタイプって、ゆーこちゃんか、かおりんみたいな子じゃない?」

 え、ほんと?


「ぼいーん、ね」

 悔しそうにクッキーを齧る、小動物みゆみゆ。


「胸か」

 ぽつりと、おさげ眼鏡。


「そ、そんなこと……」

 どきどきしている大きな胸の黒髪ぱっつん。


「包容力があって優しい女性、っておっぱいだけじゃないわよ?」

 そうだ工藤さん。もっといってやれ。


「りりちゃんって、このくらいだったかな……」

 手を丸いおわんの形にする小悪魔ユキナさん。

「見た目小柄だけれど、そこそこあるのね。というかユキナいつの間に」

「おっぱいはクリア、と」

 メモをとる真似をする天使みゆみゆ。


「三橋さん、そこは必要なの?」

「工藤さん……ないよりあった方がいいわ!」

「そう……」

 ため息をつく眼鏡。


「それにしても、忙しすぎる毎日の中では、恋をする余裕なんてないのかもしれないわね」

 うれいながら物申す美しきゆーこちゃん。


「そうよね。次はあれやって、これやって、あれが終わったらやっと休める……なんていう状態だと恋どころか趣味すらできないわね、きっと」

 うなずく、おさげ工藤さん。


「あれ?じゃぁ、りりちゃんがたまに教室で裁縫やってたのって趣味じゃなくて……実用!?」

 テーブルにスムージーカップを叩きつける真似をするユキナさん。

 音は立てません。

 芸が細かい。


「なんだか、いたたまれなくなってきたわ。あんな小さくていい子が、ここまで苦労してるなんて」

 思わずうるっとくる工藤さん。

「だから、幸せにしてあげたいの!」

 我が意を得たり、と立ち会がる小動物、可愛い。


「一時的に、子供たちから解放されてみたらどうかしら?そうすると、周りに目が向けられるかもしれないわ」

 提案する古風美少女。


「そうだね。子供たちの面倒は私たちでみればいいし」

「そうやって作った時間で、斎藤君にお礼がてらデートに誘うの!」

 盛り上がる小悪魔組。


「いいわね……でも肝心の佐藤さんの気持ちはどうなのかしら?彼女は他に好きな人がいたりしないのかしら」

 ごもっともです。


「いないわ……言った通り、ずっとちびちゃんたちの面倒をみるのに忙しくて。今まで関わってきた男の子って、斎藤君くらいじゃないかな」

 なんて不憫ふびん


「ねぇ……私も、佐藤さんが好きな人ができて、幸せになってくれるのが一番と考えているのだけれど。佐藤さんってまだ、心が幼いのではないかしら?無理をさせるのはよくないと思うのだけれど」

「確かにそうかも……さすがゆーこちゃん!よく見てる」

「あ、ありがとう……」

 ほんのりと思いやる包容力を持つ前髪ぱっつん。

 包容力はその大きな胸のなかにあるの。


「そうね、普段小さな子供たちの相手しかしていないのでは、恋心は育ってないわね。きっと」

 同意するおさげ眼鏡。


「てことは、まずは恋に恋するところから?」

「んー!一緒でいいと思うな……相手を大切に思う気持ち、感謝の気持ちに恋の成分を混ぜてそれを愛に昇華していくの!」

「素敵ね」

「確かに、恋はこうじゃないといけない、なんてないわね。好きになる心なんて理屈じゃないもの」

「そうよね……そうしたら、普段の中でなんというか、女の子と男の子を意識させればいいのかしら」

 昇華されていく議論の場。

 キミ、我が社の将来は明るいぞ。


「筋肉かしら」

 違うよ。

 将来が不安になった。


「違うよゆーこちゃん」

「違うわよ島澤さん」

「それは違うのよ島澤さん」

「そ、そう、いいと思うのだけれど……」

 うん。笠薙くんのはいいよね。


「まずは、もうちょっと情報がいる気がする!」

「そうね、ことを急いで関係を壊してしまっては、恋どころではなくなるわ」

「とすると、まずはご家族からかな」

 パワフルな女の子達。



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