莉理花ちゃんのために
今朝の教室は、少し違うざわめきのようです。
「……ぬぬぬ、えとxが累乗した後に、yがこっちに動くから二つの合計のzがこうなってー、合計値一単位当たりの値はzで微分かけてー……」
「わぁ……頑張ってるね、そのちー。おっはよー!」
「む!?あ、おはよー、ゆきゆき」
いぇーい、とハイタッチを交わす、我らがユキナさんと小さな園上さん。
本当に同い年?
「数学のテスト勉強してるの?」
園上さんの茶色がかった明るい髪を、なでりなでりしてます。
「うん。期間テストはまだ先だけど……頑張らないと!」
むふん、と両手を握ってやる気をだす園上さん。
小さく胸をはって可愛いです。
「……ゆきゆきは、しないの?」
しないの?と上目がちに言われると萌えます。
「……っ!するっ!きゅんっとする!」
「?何を言っているの……って、わっ!」
きょとんと首を傾げられ、可愛さに抵抗できずハグするユキナさん。
「はぁぁ……そのちーは、なんでこんなに可愛いんだろう」
くいくいと頬ずりする。
「やーめーてー……」
助けを求める小さな天使に、救いの声。
「ヤギちゃん、いつも元気だね」
「あ、みゆみゆー。おっはよー!」
「おはよ、ヤギちゃん」
お早うございます、三橋由美さん。
ヤギさん?川瀬皆八木さん!
「なんかみゆみゆにヤギちゃんって言われると、みゆのペットになった気がするわ!」
「いや?」
小悪魔を手玉に取る、小さな天使がもう一人。
「いやじゃないわ!ぜひ可愛がってね?」
さすがです。
「あまり、まりちゃんいじめないでね?」
ちょっと困ったような顔をしながら、近くの自席に座り鞄をおく黒髪天使。
園上さんな真理ちゃんです。
「?あ、ちょっと、可愛がりすぎたかな……ごめんね?」
「……べつにいい、よ。なでられるの好きだし」
二人ともいい子です。
「あたし達、よく撫でられるしね。もう撫でられ慣れちゃったけど」
可愛い頭が、ちょうど素敵な位置にくるのですね。
「そうね、やっぱりこういうのって、あまり好きじゃない?」
「まりは、好きみたいよ?彼氏の江西さんに抱っこされてずっとなでなでされてるし」
「ん。広汰さん好き」
ほのぼのしますね。
「まりちゃん、あつあつね」
「みゆみゆは?」
「私は、そこまで好きではないわ。子ども扱いされているみたいで」
三橋さんは小さな大人なのです。
「そうね。そういうのあるなぁ……」
「ヤギちゃんも?」
「私もさ、髪型がこれで、ちょっと背が低いでしょ?そうすると、周りの人からは微笑ましいものをみる目で見られるのよねー」
ぴよーんと、頭の両脇から伸びる艶やかな髪をもてあそぶユキナさん。
「髪型を大人っぽくしてみたら?……そう島澤さんみたいなストレートとか」
大人っぽい代表ゆーこちゃん。
「ゆーこちゃんは素材がいいからなー……私があの髪型にするともっと幼く見られそう」
等身大座敷童?
「お互い難儀な部分もあるのね……。あら、でも衣津々君はきちんと見てくれるのでしょ?」
「うん!フミくんはね、幼いとか大人っぽいとかそういうこと関係なく、あたしを見てくれるからね!この髪型、あたし好きだし。あ、フミ君が違うのがいい、といえば、シャギーでもボブでも……ストレートでもするけど!」
可愛い髪型いいですね。
でもツーサイドアップなら飾り紐をプレゼントしてもらえます。
「本当に好きなのね」
「みゆみゆも、宗方さんのこと好きなんでしょ?」
三橋さんの彼氏さんは宗方さん。
「……そうね嫌いじゃないから、付き合っているわ。あの人、私がひどいことを言ってもずっと笑顔でいるの。たまには、違う表情もみたいものなのに、いつかその大人の余裕を崩してあげるんだから」
宗方さんは大人の人。
「みゆみゆ、って結構女王様気質よね」
「あら?知らなかったの?小さなこの体で甘く見られないように、精一杯頑張っているのよ?」
可愛いです。
「でもみーちゃん、初等生に間違われてアトラクションチケットが半額になったー、って喜んでなかった?」
「ま、まり……それは言わない約束よっ!」
すっごく可愛いです。
「みゆみゆ、結構したたかね」
「でもね?喜んでたけど、宗方さんが、慌てて初等生じゃないです!ってフォローして正規料金払ったの。みーちゃん、しばらくぷりぷりしてたよねー」
「ほほう」
「ち、違うのよ?あれは、ハジメがご機嫌取りたそうにしてたから、わざとそういう風に振舞ったの!大体あの人、いつも変わったシチュエーションで求めてくるのだから……」
つんつん?
「みゆみゆも、らぶらぶなのね。あ、邪魔してごめんね。テスト勉強してたのにね」
そうでしたね。
「ん、まだかまわない。ゆきゆきはテスト勉強しなくていいの?」
「今度ね……フミくんと一緒にお勉強するんだぁ、えへへ」
仲良きかな。
「あ、なるほど、それはいい。私も広汰としよう。はかどりそう」
「お勉強デートね。私もそうしようかしら。あ……」
何かに気付いた、つんつん黒髪天使。
「ん?」
「だめよ。りりかを手伝ってあげないと」
佐藤さんすなわち、莉理花さん。
「そっか。りりちゃん、おうちの手伝いとかでいつも大変だしね」
「佐藤さん?おうちの手伝いって何してるの?」
丁度その時、てとてとと教室に入ってくる、最後のマスコット天使でミディアムボブな佐藤さん。
「おはよー……?私のこと話してたの?えとねー。私のところ、沢山弟妹がいるんだけど、お父さんとお母さんが研究で忙しくてあまり家にいられないの。おばあちゃんたちも手伝ってくれるんだけど、それでも手が足りなくって」
ちびちゃんは可愛いけど、怪獣さん並みに元気です。
「あ、おはよー、佐藤さん。そーなんだー……ひょっとしてそれでいつも眠そうなの?」
手をふりふり挨拶するユキナさん。気になったことを聞いてみる。
「にゃはは、お恥ずかしながら~」
ほんのりと眠りの泡を醸しながら、おっとりと答える莉理花な佐藤さん。
「ね、りりか。斎藤君は今日も?」
斎藤君?
「?あー、うんカズくんとは途中まで一緒だったよ?」
斎藤かずくん?
「カズくん?」
「うん。斎藤和孝くん。幼馴染なんだけど、同じく保育園に連れていく弟妹がいるので、朝一緒になることが多いんだ」
ご近所さんですね。
「斎藤くんって、どこのクラスなの?」
「ん、斎藤っちは確か五組、向こうの棟だったはず」
五組は離れているのですね。
「あれ?まり……なんで知ってるの?」
「たまに、りりかを訪ねてきてたから。いつも、りりかいなかったけど」
真理ちゃんの席は入り口に近いのです。
受付天使まりちゃん。
「へー、なんだろう。なんか用事でもあったのかな?」
本当に、わからなそうな眠りのりりか。
「ねぇねぇ、みゆみゆ、これって……」
「多分、そうだと思うわ」
小悪魔ユキナと天使みたいな小悪魔みゆみゆは何かに気付いたようです。
「ほうほう」
「ね、一肌脱いでくれないかしら?」
「いいよー、喜んでステージ整えるよー」
展開は、早い。
「りりかにもいい人が来てほしいもの。こんなに苦労してるいい子なのだから」
ほう、とため息つく天使みたいな小悪魔さん。
「まだ小さいのにね」
「私たち、同い年よ?」
そうですね。