デート
多くの人たちが待ち合わせに使う、とある街の噴水近く。
そこにはあの人たちの姿がありました。
「可愛いな、優子」
のっけからこれです。
「あ、あの……ありがとうございみゃふ」
「だめ!ゆーこちゃんに萌えちゃうっ!」
島澤さんに思わず抱き着くユキナさん。
「あ、いーなー、僕も僕もっ!」
今日はダブルデートだったのですね。
あ、フミ君が抱き着いているのは川瀬皆八木さんですよ?
「笠薙君はしないの?ハグ」
島澤さんの柔らかなお腹に手を回して、抱き着いている川瀬皆八木さん。
そんなことすると、島澤さんのブラウスが引っ張られて、お胸が強調されてしまいます。
すごいです。
「する」
男がおる。
そして、可愛い彼女をぎゅっと優しく抱きしめる笠薙君。
笠薙君は背が高いので、頭を胸に抱え込む形になりますね。
「あ、あの、ちょ、ちょっと恥ずかしいのよ?」
でも島澤さん嬉しそう。
「今日もいい香りだ、優子」
「~っ!」
だって、艶やかな黒髪が間近にあるのです。
頑張ってお洒落してきて良かったですね、ゆーこちゃん!
「フミくん!フミくん!私はどうだいっ?」
らぶらぶな空気にあてられたのか、愛しのフミ君に抱き着く川瀬皆八木さん。
「うん……いつものユキナだね!安心するよ?」
「きゃ~、マーキングしてあげよう……すりすりー」
ユキナさんとフミ君は背が近いので、ほっぺすりすりができてしまいますね。
少し離れた木陰から、いちゃらぶな恋人たちを見守る四人の姿がありました。
そう……彼女たちです。
「……うん。あの二組の恋人たちは、少し自重したほうがよくないかな?」
今日もおさげ眼鏡は絶好調です。
「教室でのいちゃらぶと変わらないよねっ!」
妃ちゃんのリボンは毎日変えています。
「ねぇねぇ、なんでボクたちこんなことしてるのさ?」
ポニテなボクっ娘の井上さんは、常識人。
「仲が良いいのはいいことよ~?」
あらあらうふふ。
「『ゆーこちゃんとナギくんが、私服で並んでいるところを見てみたいっ!』って言っていたのは妃よ?」
肩にかけたバッグ紐の位置をそっと直す工藤さん。
土曜日の朝から大変でしたね。
「おー、そのとおりっ……来てよかったよねー?見て見てっ!大きなナギ君とおしとやかなゆーこちゃんが並んでいるのを見ると、なんだか無性に安心するの!……なんでかな?」
あの二人は、絵になりますね。
「妃ちゃんって、おっきな人が好きだからじゃないのかな?妃ちゃんのお父さんもおっきいし、お兄さんもおっきいでしょ?」
ほほう。
「初々しい恋人のような雰囲気でありながら、それなのに何故か、仲のいい若夫婦をみているかのような感覚がするわね……」
「そうねぇ……若い恋人たちというのであれば、ユキナちゃんとツツ君のような感じかしら?」
ダブルデートだと、それぞれの特色がでますね。
とある、総合ショッピング施設が集うシティエリア。
大きなタワーが、いくつもの広い階段や空中回廊でつながっています。
オフィスも沢山入っているそうで、とても清潔で綺麗です。
「へぇ……最初はステーショナリーを見にいくのね」
お洒落な文房具ですね。
「あ、私も新しいシールが欲しいなっ!」
「ボクはカラーマーカーが見たいな、オレンジとパープルが欲しい」
綺麗な文房具とかって、なぜかわくわくしますよね。
「私も、明日ここにデートしに来ようかしら~?あら可愛い小物入れ……」
山海さんもわくわくがとまりません。
「インテリアフロアにも行くのね……。あら?あのシェードランプ、ちょっと可愛いわ」
「いいわねぇ……こっちのふわっとしたのも素敵」
インテリアもいいですよね。カタログを眺めるだけでも楽しいです。
「ねぇねぇっ!このサボテン可愛いっ!」
「あ、ほんとだっ!……このスポイトでお水をあげるのかなっ?」
観葉植物もいいですね。
「家具……フロア?」
工藤さんが疑問を呈します。
「ファッションチェアでも見に来たのかな?」
むふん?と首をかしげる妃さん。
「でも、ここ家族向けの大物ばかりだよ?」
周りを見渡すポニテっ娘。
「そうねぇ……もう少し小さいサイズのものは一つ下のフロアでしたし……」
フロア案内板をみる、ほわほわ山海さん。
「あれって、リビング用のテーブル?」
「なぜ、あれを見て盛り上がっているのかしら……」
「うん……あのソファも確かにいいんだけど、ちょっと堅実だよね」
「どうして多人数用の値段をチェックしているのかしら?」
「自分の家のものを買い替えるための下見、とかかなぁ?」
きっと違うのです。
赤ちゃんグッズ売り場。
「……違うと思うのよ?」
「さすがに、違うと思いたいの」
「ちょ、ちょっと場違い感が……」
「あらあら~」
まだ早いですよ?
「なに、なに!?もう、なの?」
違いますよ?
「そんなことはないはずよ。だって、あの子たちが付き合い始めたのは一月かそこらよ?いくらなんでも……」
「ほ、本人たちではなくて親戚の子用とか?」
「向こうは盛り上がっているようね~……」
ダブルデートならではの盛り上がり方っぽいですね。
少し高い階層にあるレストランエリア。
眺めが良いです。
「うわ!人がすごいね……」
「お昼だから仕方がないわ」
「あ、廻るお寿司がある!ボク、あそこ行きたいなぁ」
「かなり並んでるわね~」
廻し寿司は人気店。
「あの子たちはどこで食べるのかしら……屋上エリアへ行くの?」
「そういえば!屋上エリアにもフードエリアがあったよっ?」
「手軽に軽食が食べられるから、そっちかな?」
「あら、おいしそうなマチュドニア……」
レストランエリアも目移りしますね。
広い屋上も、平坦な造りではなく、なだらかな曲線や階段が優しい雰囲気を醸し出しています。
緑や、小さな噴水も素敵です。
「そうきたかっ!」
そうなのです。
「まさかの……」
そうなのです。
「愛妻弁当ね……ユキナのことを甘く見てたわ」
「ゆーこさんは期待を裏切らないわね。まさかお重箱で用意してくるなんて」
ユキナちゃんもゆーこちゃんも、お料理できます。
そして島澤さんは古風美少女でした。
「ねぇ。私たちも食事に行きましょ?というかこれ以上この場にはいたくないの」
「あ、そっか!そうだね~……えへへ。ボクも今度ここに来ようっと!」
この場にいることの危険性に気づいた、おさげ眼鏡さんとボクっ娘ポニテさん。
「あれ?凛ちゃん、お弁当作れたっけ?」
井上さんちの凛ちゃんです。
「お料理は練習中なんだけど、このシチュエーションは譲れないのさっ!」
そうだよねっ!
「おかずは少し小さめに作っておくといいのよ~?」
「「あーん、ってするにはねっ!!」」
はい、あーんは素敵です。
未来的なプラネタリウムエリア。
広々とした空間とそれでいて静かな光がムードを高めてくれます。
「ふふ……ロマンティックでいいわね」
「ここ、ふわふわクッションで横になってみれるんだよねっ!」
「恋人用リクライニングソファもあるよ?」
「床も硬くなくて、柔らかい芝生みたいね~。学校帰りの土手、といったイメージかしら」
そう……座席に座って、首が痛くなることはないのです。恋人たちも安心です。
やすらぎの一時を貴女に。
「梅雨が過ぎれば、夏ね……」
「花火大会に海開きっ!」
「夏祭りにプールっ!」
「デートもしたいけれど、みんなとももっと遊びたいわね~」
「「期間テストさえなければ……」」
夏の星空をみて、思い至ったようです。テスト頑張ってね。
少し離れたところにある、品の良さを感じさせるカフェ。
ツタ模様とか、植えてあるお花がかわいらしいです。
「学生が来るには、少し敷居が高くないかしら?」
まさかのドアノッカー付扉。
「姫ちゃんとかいそう……」
いるの?
「よ、予約がいるのかなっ?」
「お値段高くないのかしら~?」
「ねぇ、ここに入るの?」
カジュアルなお店によくあるような、メニューやプライスリストが外に置いてあるわけではないのですね。
「今度、デートで入ってみるわっ!」
意思を固めるリボン娘の妃ちゃん。
「そうだねっ……ちょっと興味があるカナ」
井上さんちの凛ちゃんもやる気です。
「詳しそうな子に聞いておくわね……あら?ユキナに聞けばいいんじゃないかしら?」
そう頷く、おさげ眼鏡工藤さんと小首を傾げる山海さん。
もう少し歩いたところにある大型書店。
とても大きいです、カフェもありますよ。
「笠薙君のセレクトかしら?」
熊さん、島澤さんのことをよく見てるもんね。
「ゆーこちゃん、本好きだもんね」
そうなのです。
「あ、あの本の最新刊でてるかな、ボク、ちょっと行ってくる」
ポニテっ娘も本は好きらしいです。
「あら?この編みぐるみの本いいわね~」
山海さんは編み物ですね。
少し陽が傾いて、いい雰囲気になる時間帯。
もう少し歩くと、海がよく見える広い公園があるのです。
「ま、ここになるわよね」
「そうだねー。私もデートの時、ここくるもん」
「あ、妃ちゃんも?ボクもここくる。アイスとかもあるし、あのベンチに座って海をみるの落ち着くよねっ?」
「そうね~。隣にいる人の体温も感じられて、心が満たされるのよね~」
みんな、来たことがあるようです。デートの定番ですね。
これで今日のダブルデートは終わりのようでした。
楽しそうで良かったです。
休日明けの学校の教室。みんなの元気な声が聞こえます。
「おっはよー!デートどうだった?」
「おっはよー、妃ちゃん!最高だったわよ?」
きゃっきゃっと、リボン娘の妃ちゃんとツーサイドアップ川瀬皆八木さんが手をとりあっている。
「あれが、デートか……とてもいいものだ」
今日も大きな笠薙君は大満足です。
「そうでしょー?今回はダブルデートだったけど、二人っきりで行くのもいいよ~?」
一歩先を行くフミ君。
「ふ、二人っきり……想像すると、すごくドキドキするわ」
その大きな胸に手をあててドキドキする島澤さん。
「ああ、今度は二人で」
「静真さん……」
「優子……」
見つめあう二人、会話は……要らない!
「あなたたち、朝からお熱いわね……」
おさげ眼鏡登場です。
「おっはよー、ミミナちゃん!」
誰……っ!ああ、工藤三美奈さんね。
「おはよ。あら、新しい飾り紐ね……?」
「いいでしょー、フミくんがプレゼントしてくれたんだよ?」
「えへへ、ユキナに似合うと思って」
フミ君はデートの時に、きちんと選んでいたようです。
ユキナさんは幸せ者です。
「やるねーツツ君、おっはよー!」
「おはよう、井上さん。今日も元気だね」
元気なポニテっ娘、井上さんちの凛ちゃんが、乱入してきました。
「うんうん、楽しいお休みだったのですよっ!……あれ、かおりんは?」
あふれるエネルギーを周囲に振りまいています。
かおりん?……山海香織さんですね。
「山海さんは、彼氏さんのところに行っていたわ、おはよう井上さん」
あ、島澤さんがこちらの世界に戻ってきました。
おかえりです。
山海さんの彼氏は年下君だそうです。
「おはよう、ゆーこちゃんっ!そっかー……日曜日の件かな?」
「ところでユキナさん、聞きたいことがあるのだけれど……」
さり気に情報を集めるミミナさん。
予鈴がなっています、もうすぐ授業が始まりますね。