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夕焼けショコラティエ  作者: 香ノ月 十佳
第一章 新しい恋人たち
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デートしないの?

 夕日がさす教室で、二つの人影が向かい合っていた。

 一つは熊で、一つは古風美少女だ。


「君のことが好きだ、付き合ってくれ!」

「そ、その……本当に、私でいいの?」

「君じゃなければだめだ……君がいい、島澤優子しまさわゆうこさん!俺と、この笠薙静真かさなぎしずまとお付き合いして下さい!」


「は、はい!私でよければ……!」

「ありがとう!」

「きゃ!」

 熊が美少女を抱きしめた!



 朝の教室で、衣津々(いつづ)君と川瀬皆八木かわせみなやぎさんが、告白が成功した笠薙君と島澤さんのところにやってきた。

「ほらー、うまくいったじゃない!」

「うんうん……よきかなよきかな」


「ああ、お前たちには助けられたな、ありがとう」

「わ、私は、まだ少し恥ずかしいかな。ね?その、あまり人前ではいちゃいちゃしないようにしましょ?」

 なんだか空気がほわほわしている。


「ああ、節度を守って適度にな」

「え、ええ、わかってくれて嬉しいわ」

 恥ずかしそうに頬を染めながら、相手の目を見つめる島澤さん。

 見つめる相手は笠薙くんだよ?


「距離が近いですな、お二人さん」

「ああ……今日も優子はいい香りがするんだ。髪もサラサラつやつやで綺麗だしな」

「あなた、そんな……」

 そっと島澤さんの頭に手をやり、軽く自分の胸に抱きよせ香りを堪能するかのような笠薙君。やりすぎ。

 それに、まんざらでもなさそうな島澤さん。あなたもか。


「きゃー、あなたですって!」

「ち、違うのよ、今のは!」

「ゆーこちゃん、かわいいー!」

 美少女に抱き着く川瀬皆八木さん。


「ねー、笠薙……キミも大概いちゃらぶすごいよー?あ、親御さんに挨拶は行くの?娘さんを下さいって」

 何をいうのか衣津々フミくん。


「もちろんだ。この幸せを報告したい」

「今週行く?」

「ああ、そうだな。それがいい、そうしよう」

 なにを言っているんだ、こいつらは?


「ね、ねぇ、あな……静真さん。ちょっと話が飛躍しすぎじゃないかしら?まだ、その早いと思うの、学生だし……」

「ゆーこちゃん、ゆーこちゃん。喋っていることと行動が違うよ?そんなに嬉しそうに笠薙君の腕に掴まらなくても。あ、おっぱいあててる」

「!」

 指摘されて赤くなるけど、離れはしない島澤さん。


「すばらしい」

 魅惑の光景を素直に称賛するフミくん。

「ああ……柔らかくていい匂いがして、幸せだ」

 そして、丁寧に感想を述べる熊さん。


「し、静真さん!」

「あ、私も―。ねぇねぇ、どう?フミくん」

 寂しくなったのか、フミくんにひっつく川瀬皆八木さん。

「ユキナもいい匂いがするし、おっぱいも気持ちいいよ!」

 いいのか。それで?


「やったー。えへへ」

 みんな幸せ、それでいい。



 週明けの教室にて。

 笠薙静真君と衣津々フミ君がお話ししている。

「それでどうだったの、ご挨拶にいったんでしょ?」

「ああ。土曜日に優子の家に行ってな。娘さんを下さいと、言ってきた」

 熊は度胸だ。


「本当に言ったんだ……僕もまだ言ってないのに。くそ度胸だね。そしたら?」

「そうしたら、『いいだろう!但し、私を倒してからにしてもらおう!』と父君が言われたのでな、向こうは薙刀でこちらは竹刀を貸してもらった」

 そんなこと言う人が、本当にいるんだね。


「今のご時世で、それは時代錯誤感がすごい。というか、薙刀?」

「言ってなかったか?優子の家は、薙刀の道場を開いているんだ。もちろん優子も扱える」

「なんだか他の女の子とは雰囲気違うなぁ、って思ってたけど、そのせいだったのかな」

 綺麗な女の子には秘密があるのです。


「弓も使えるらしい」

 さらなる秘密です。

「す、すごいんだね。じゃなくて!結果、どうなったの?」

 身を乗り出す衣津々(いつづ)何某なにがし


「五本中、二本しかとれなくてな。さすがに、薙刀相手での立ち回りは厳しかった。だが優子を諦めきれない、と伝えてな。今週また試合をすることになった」

「師範相手に二本とれるだけすごいと思うんだけど……。じゃあ、土曜日に試合して終わり?」

「いや、日曜日は優子をうちの両親に合わせてな。可愛い娘が嫁にきた!と両親が大喜びしてくれてな」

 笠薙君やりすぎ。


「どこからつっこんだらいいのかわからないけど……試合に負けたんじゃないの?」

「勝てばすぐに結婚していいと言われただけで、付き合ったらだめだとは言われていないぞ?」

「け、結婚……」

「早く結婚したい。ずっと一緒にいたい」

 こやつ、言いおったわい。


「笠薙、付き合い始めたばっかりじゃない?」

 君もね、フミくん。

「優子ほどいい嫁はいない。料理はうまいし、掃除も行き届いている。恥じらいと奥ゆかしさももっているし、心配りが実に素敵だ。それはそうと、衣津々も川瀬皆八木を両親に紹介したんじゃないのか?」

 もう嫁になってる。


「ああ……うん。こちらはすぐ結婚というわけじゃないからね。かわいい彼女だよ、って紹介して、家族と一緒にご飯食べて、おうちデートしたよ?」

「デートか」

「うん、デート」

「デート……」

 いい響きだよね。


「どうしたの……って、ああ。いきなり娘さんを下さい、って言ったり、嫁をもらってきました、ってことしかしてないから、デートしてないのか。……それでいいの?笠薙」

「正直デートしたい」

 ぶっちゃけた。


「じゃぁ、あれだね。今週、ってまた試合するの?それよりデートしなよー」

「む……いや、一刻でも早く嫁にもらいたい。一緒にいたい」

「でも、島澤さんの気持ちも考えないと」

「それもそうだ。きちんと話をしてみよう」

 それがいいよ。



 女の子たちが集まる軽食ラウンジにて。

 川瀬皆八木さんが、島澤さんから報告を受け取っていた。


「ゆーこちゃんたちって、ぶっとんでるよね!」

「言わないで……。勢いって怖いものね、ほんとに」

 ゆーこちゃんは、勢いに弱い、と。


「笠薙君。まさか本当に、ゆーこちゃんをお嫁さんに下さい、っていうなんて……。すっごい男らしいね!」

「……すごく、恥ずかしかったわ」

 まさか、本気で本当に言うとは思わなかったんだろう。普通そうだよね。

「恥ずかしがってるゆーこちゃん、可愛いーっ!ああ、このすべすべのお肌も、つやつやの黒髪も、たゆんたゆんのおっぱいも、もうあの男のものなのねっ!」

 抱き着く小悪魔。


「な、なにを言っているのかしら!まだそんなことしてないわ!」

 まだ?

「そんなことってなにかなー?ゆーこちゃんのえっちー……で、キスしたの?」

「もうっ!もうっ!知らない……」

 かわいらしく、そっぽをむくゆーこちゃん。


「したのね」

 追及の手は緩まない。緩めない。

「……お母様が『お婿さんにはキスくらいするのよ?』って。わ、私は、まだ早いと思ったのだけれど、雰囲気にのまれて」

「彼のたくましい腕に抱かれたのね?」

「……!……!」

 すごい……。


「うん!笠薙君めっちゃ男らしいわ。格好いい!好きな娘に対して一歩も退かないのねっ!あ、フミくんもキスしてくれたよ。優しくてとろけるかと思った。あと、男の人の腕の中ってなんだか安心できるのよね、やっぱり好きだからかな?」

 なんだかんだで、きちんと前進している川瀬皆八木さんと衣通津フミ君。


「ま、結婚話はともかくとして、デートとかしないの?」

「え、ええと、先週の土日はご挨拶とかしてて。その、まだ……」

「それはだめね。やっぱり二人で遊びに行かなきゃ!よし、ゆーこちゃん。帰りに〈ステラ・シルク〉に寄っていこうよ、デートの服を選ぶの!」

「え、ええと?」


「今週の委員会活動はいつ?その日以外は通い詰めるわよ?」

「……で、でも」

「でもなに?」


「静真さんと一緒に帰りたい……」

「ゆーこちゃん、可愛いーっ!」

 やはり古風美少女はいいものだ。


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