デートしないの?
夕日がさす教室で、二つの人影が向かい合っていた。
一つは熊で、一つは古風美少女だ。
「君のことが好きだ、付き合ってくれ!」
「そ、その……本当に、私でいいの?」
「君じゃなければだめだ……君がいい、島澤優子さん!俺と、この笠薙静真とお付き合いして下さい!」
「は、はい!私でよければ……!」
「ありがとう!」
「きゃ!」
熊が美少女を抱きしめた!
朝の教室で、衣津々君と川瀬皆八木さんが、告白が成功した笠薙君と島澤さんのところにやってきた。
「ほらー、うまくいったじゃない!」
「うんうん……よきかなよきかな」
「ああ、お前たちには助けられたな、ありがとう」
「わ、私は、まだ少し恥ずかしいかな。ね?その、あまり人前ではいちゃいちゃしないようにしましょ?」
なんだか空気がほわほわしている。
「ああ、節度を守って適度にな」
「え、ええ、わかってくれて嬉しいわ」
恥ずかしそうに頬を染めながら、相手の目を見つめる島澤さん。
見つめる相手は笠薙くんだよ?
「距離が近いですな、お二人さん」
「ああ……今日も優子はいい香りがするんだ。髪もサラサラつやつやで綺麗だしな」
「あなた、そんな……」
そっと島澤さんの頭に手をやり、軽く自分の胸に抱きよせ香りを堪能するかのような笠薙君。やりすぎ。
それに、まんざらでもなさそうな島澤さん。あなたもか。
「きゃー、あなたですって!」
「ち、違うのよ、今のは!」
「ゆーこちゃん、かわいいー!」
美少女に抱き着く川瀬皆八木さん。
「ねー、笠薙……キミも大概いちゃらぶすごいよー?あ、親御さんに挨拶は行くの?娘さんを下さいって」
何をいうのか衣津々フミくん。
「もちろんだ。この幸せを報告したい」
「今週行く?」
「ああ、そうだな。それがいい、そうしよう」
なにを言っているんだ、こいつらは?
「ね、ねぇ、あな……静真さん。ちょっと話が飛躍しすぎじゃないかしら?まだ、その早いと思うの、学生だし……」
「ゆーこちゃん、ゆーこちゃん。喋っていることと行動が違うよ?そんなに嬉しそうに笠薙君の腕に掴まらなくても。あ、おっぱいあててる」
「!」
指摘されて赤くなるけど、離れはしない島澤さん。
「すばらしい」
魅惑の光景を素直に称賛するフミくん。
「ああ……柔らかくていい匂いがして、幸せだ」
そして、丁寧に感想を述べる熊さん。
「し、静真さん!」
「あ、私も―。ねぇねぇ、どう?フミくん」
寂しくなったのか、フミくんにひっつく川瀬皆八木さん。
「ユキナもいい匂いがするし、おっぱいも気持ちいいよ!」
いいのか。それで?
「やったー。えへへ」
みんな幸せ、それでいい。
週明けの教室にて。
笠薙静真君と衣津々フミ君がお話ししている。
「それでどうだったの、ご挨拶にいったんでしょ?」
「ああ。土曜日に優子の家に行ってな。娘さんを下さいと、言ってきた」
熊は度胸だ。
「本当に言ったんだ……僕もまだ言ってないのに。くそ度胸だね。そしたら?」
「そうしたら、『いいだろう!但し、私を倒してからにしてもらおう!』と父君が言われたのでな、向こうは薙刀でこちらは竹刀を貸してもらった」
そんなこと言う人が、本当にいるんだね。
「今のご時世で、それは時代錯誤感がすごい。というか、薙刀?」
「言ってなかったか?優子の家は、薙刀の道場を開いているんだ。もちろん優子も扱える」
「なんだか他の女の子とは雰囲気違うなぁ、って思ってたけど、そのせいだったのかな」
綺麗な女の子には秘密があるのです。
「弓も使えるらしい」
さらなる秘密です。
「す、すごいんだね。じゃなくて!結果、どうなったの?」
身を乗り出す衣津々何某。
「五本中、二本しかとれなくてな。さすがに、薙刀相手での立ち回りは厳しかった。だが優子を諦めきれない、と伝えてな。今週また試合をすることになった」
「師範相手に二本とれるだけすごいと思うんだけど……。じゃあ、土曜日に試合して終わり?」
「いや、日曜日は優子をうちの両親に合わせてな。可愛い娘が嫁にきた!と両親が大喜びしてくれてな」
笠薙君やりすぎ。
「どこからつっこんだらいいのかわからないけど……試合に負けたんじゃないの?」
「勝てばすぐに結婚していいと言われただけで、付き合ったらだめだとは言われていないぞ?」
「け、結婚……」
「早く結婚したい。ずっと一緒にいたい」
こやつ、言いおったわい。
「笠薙、付き合い始めたばっかりじゃない?」
君もね、フミくん。
「優子ほどいい嫁はいない。料理はうまいし、掃除も行き届いている。恥じらいと奥ゆかしさももっているし、心配りが実に素敵だ。それはそうと、衣津々も川瀬皆八木を両親に紹介したんじゃないのか?」
もう嫁になってる。
「ああ……うん。こちらはすぐ結婚というわけじゃないからね。かわいい彼女だよ、って紹介して、家族と一緒にご飯食べて、おうちデートしたよ?」
「デートか」
「うん、デート」
「デート……」
いい響きだよね。
「どうしたの……って、ああ。いきなり娘さんを下さい、って言ったり、嫁をもらってきました、ってことしかしてないから、デートしてないのか。……それでいいの?笠薙」
「正直デートしたい」
ぶっちゃけた。
「じゃぁ、あれだね。今週、ってまた試合するの?それよりデートしなよー」
「む……いや、一刻でも早く嫁にもらいたい。一緒にいたい」
「でも、島澤さんの気持ちも考えないと」
「それもそうだ。きちんと話をしてみよう」
それがいいよ。
女の子たちが集まる軽食ラウンジにて。
川瀬皆八木さんが、島澤さんから報告を受け取っていた。
「ゆーこちゃんたちって、ぶっとんでるよね!」
「言わないで……。勢いって怖いものね、ほんとに」
ゆーこちゃんは、勢いに弱い、と。
「笠薙君。まさか本当に、ゆーこちゃんをお嫁さんに下さい、っていうなんて……。すっごい男らしいね!」
「……すごく、恥ずかしかったわ」
まさか、本気で本当に言うとは思わなかったんだろう。普通そうだよね。
「恥ずかしがってるゆーこちゃん、可愛いーっ!ああ、このすべすべのお肌も、つやつやの黒髪も、たゆんたゆんのおっぱいも、もうあの男のものなのねっ!」
抱き着く小悪魔。
「な、なにを言っているのかしら!まだそんなことしてないわ!」
まだ?
「そんなことってなにかなー?ゆーこちゃんのえっちー……で、キスしたの?」
「もうっ!もうっ!知らない……」
かわいらしく、そっぽをむくゆーこちゃん。
「したのね」
追及の手は緩まない。緩めない。
「……お母様が『お婿さんにはキスくらいするのよ?』って。わ、私は、まだ早いと思ったのだけれど、雰囲気にのまれて」
「彼のたくましい腕に抱かれたのね?」
「……!……!」
すごい……。
「うん!笠薙君めっちゃ男らしいわ。格好いい!好きな娘に対して一歩も退かないのねっ!あ、フミくんもキスしてくれたよ。優しくてとろけるかと思った。あと、男の人の腕の中ってなんだか安心できるのよね、やっぱり好きだからかな?」
なんだかんだで、きちんと前進している川瀬皆八木さんと衣通津フミ君。
「ま、結婚話はともかくとして、デートとかしないの?」
「え、ええと、先週の土日はご挨拶とかしてて。その、まだ……」
「それはだめね。やっぱり二人で遊びに行かなきゃ!よし、ゆーこちゃん。帰りに〈ステラ・シルク〉に寄っていこうよ、デートの服を選ぶの!」
「え、ええと?」
「今週の委員会活動はいつ?その日以外は通い詰めるわよ?」
「……で、でも」
「でもなに?」
「静真さんと一緒に帰りたい……」
「ゆーこちゃん、可愛いーっ!」
やはり古風美少女はいいものだ。