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夕焼けショコラティエ  作者: 香ノ月 十佳
第二章 ア・ラ・カルト
19/50

お姉さん?

 とある日のことです。


「おーい、上木谷かみきだに、奥さんがきてるぞー」


「なにー、山海お姉様か!」

「いいなぁ、上木谷君……山海お姉様が彼女さんだなんて」

「うん……あの人に甘えて癒されたい」


「……」

 クラスの皆からのやっかみやら、なにやらを受けながら、教室の入り口に立っている、ゆるふわロングウェーブの癒し系女生徒の下へ向かう、上木谷少年。


「か、かおり……その、クラスまでくるのはちょっとはずかし」

 ちょっとつんつんでやんちゃっぽい表情がテレテレの真っ赤になってます。

「あら~、おはよユウくん。あのね、少しお話ししたくなったの。ね?ラウンジにいこ?」

 照れながら、山海さんに文句らしきものを言おうとするも、にこにことお話しする山海さんにやんわりと遮られ、柔らかい手に握られながら大人しくついてく少年ユウくん。


「……上木谷君ってどうやって告白したんだろう」

「山海お姉様から、ってことはないよね~」

「学年違うし、いつ知り合ったんだ?」

「なんにしても羨ましいなぁ」

 確かに。



「か、かおり、今日はなんだかご機嫌だな?」

 ラウンジへ向かう廊下の途中でそう話しかけるユウ君。

「うふふ~、やっぱりユウ君といると落ち着くわ~、えい」

「!ななな、なに、なになにを」

「えへへ~、もう真っ赤になっちゃってユウ君かわいい」

 ぎゅぅ~とその柔らかい体を、いたいけな少年に巻き付けてすりすりする、癒し系お姉さん。


「お、俺は男だからな、その可愛いとか言っちゃダメなんだぞ?」

 ちょっととろけそうになりながら、頑張って抵抗するユウ君。

「うーん、ユウ君大好き」

「かおりぃ~」

 癒し系お姉さまの前では抵抗など無意味。



 女の子が良く集まる軽食ラウンジにて。

「それで、何?まさか本当に顔が見たかったからとかだけか?いや、俺も会えて嬉しいけど……」

 せっかくだからとカルシウム牛乳を飲みながら聞くユウ君。


「うふふ、ごめんね~朝から。あのね、今度一緒に服を見に行って欲しいなぁ~って」

 対面でうふふ~と笑ってぽわぽわと癒しオーラをふりまくお姉さん。


「ふ、服?あ、でも俺、女の人の服売ってるの苦手だし……。それにその……香織ならきっと何着ても似合うと思ってる……し」

 ちょっとひきつつも、ぽそりと一番言いたいことをいうユウ君。

 男の子だ!


「うふふ、ありがとうユウ君。ね?一緒に、見に行きたいの。だめかな?」

 それでも~とぽわりんな空気をふりまくお姉さん。

 無理だよこんなの誰が断れるの?


「い、いや、苦手なだけでダメじゃない!香織が行きたいのなら、うん、一緒に行く!」

 ほら、落ちた。


「ありがとう。そうね、ちょうど明日お休みだし、いいかな?」

「あ、ああ分かった」

「ありがとうね、ユウ君。大好き~」

「か、香織……ちょっと恥ずかしいけど……俺も、すき」

 なんだかこの空間にあまぽわーい空気が漂っています。



 ここは上木谷くんのおうちなのです。


「ユウ君……ユウ君……起きて」

「んぅ~、なに~……もうちょっと……」

「んふふ、ユウ君の寝顔も可愛い……えへへ~……えいっ」

「んぅ~、柔らかくて気持ちいい…………っ!」

 お約束のことに飛び起きるユウ君。

 いやぁ、朝から癒し系お姉さんの添い寝だなんてうらやましいよぅ、このこの。


「か、香織っ!あの、あの、な、なに、なにして」

「んー、ユウ君の匂いと体温を堪能してます~。いい匂い~」

 ぴったりくっついています。


「わ、わかった、わかった起きるから、は、離して」

「んー、ユウ君がちゅうしてくれたら、離れるかも……」

 ちゅう、だと……ごくり。


「……ほ、ほんとに……?」

 ちょっとどきどき、ユウ少年。


「うん……はい、いつでもいいですよ~……」

 んー、って綺麗な唇を突き出してくる癒し系お姉さん。

「ほ、ほんとにする……よ?」

「ちゅ」

「!!」

 されましたー、お姉さんに。

 まさか油断しているところを!


「うん、今日のユウ君分を沢山摂取できました~」

 ぽわりーん、って効果音がなりそうなくらい上機嫌です。

「香織ぃ、不意打ちはなしだよぉ……」

 それにひきかえ、自分からいけなかった少年は、少し情けない感じです。


「えへへ、朝ごはんをおばさまと一緒に作ったの、食べに行きましょ?」

 もう、そこまで公認なんですね。

「あ、う、うん。じゃぁ、着替えるから」

「……」

 おう?


「あの、着替えたいんだけど」

「うん、いいよ~。お手伝いしようか?」

 なんですと!

「い、いいよ!さ、先に下に降りてて」

「くすくす、はーい」

「もう、朝からどきどきしっぱなしだよ……」

 ですよね。お姉さまに手玉にとられてるよ少年。



 とんとん、とダイニングにおりてきました。

「おはよー、祐樹ゆうき。今日は香織さんも一緒に作ってくれたのよー。おいしそうでしょ?」

「おはよ、母さん。うわ、ほんとだ、すごいなーこれ」

「うふふ、美味しく食べてね?」

 そこには、朝食にしては少し豪華なラインナップが。

 育ち盛りの男の子なら食べれるよねっ!


「ねーねー、かおりおねーちゃん、あたしもおねーちゃんみたいにお料理できるようになる?」

 小さな女の子が目をきらきらさせながら、癒し系お姉ちゃんにお尋ねしています。

 小さな手でお姉ちゃんみたいにー、って拡げるの可愛いですね。


「あら、裕美ゆみちゃん。大丈夫よー。大好きな人のことを考えてお料理していったらおいしくできるようになるわ~」

「ほんとー!ゆみも、がんばるー」

 おおはしゃぎする、小さな女の子。

 大好きな人、もういるです?


「あらあら、裕美もいっちょ前にやる気ね。香織さんもありがとうね、祐樹だけじゃなくて、うちの小さい娘の面倒まで見てもらって」

「いえいえ~、とっても可愛くて素敵ですよ、ねー」

「ねー」

 ねー、って一緒に首を同じ方向に傾ける癒し系お姉さんと小さな少女。


「本当に、仲いいなぁ~香織と裕美」

 仲良きことは美しきかな。

 もぐもぐ。



「少し、時間があるわね、歩いていきましょうか?」

「ん?いいよ。スクエアでいいのか?」

「ええ、丁度、夏物用のフェアが始まっているの。ユウ君は、夏用の服とかもう買ったのかしら?」

「俺か~。多分、まだかな。いつもだったら、大体もう少しして家族で見に行ってたから」

「あら、そうなのね~。もしよかったら、一緒に見ましょうね?」

「あ、ああ。香織が一緒なら助かる」

 朝のすがすがしい空気と青空の元、のんびりとお散歩をする若い恋人たち。


「うふふ」

「あ……」

 いつのまにかその手が握られていたようです。


「夏って、素敵よね……一緒に思い出を作りましょうね?」

 そして、にっこりと語り掛けるお姉さん。

「うん……あの、香織、ありがとう。俺と付き合ってくれて」

 でもここで戸惑わずに、きちんと言いたいことが言える男の子です。

「ユウ君……」

 お姉さんちょっとどきっとしちゃった。



 スクエアにある、紳士服売り場です。



「ねぇねぇ、これなんてどうかしら、えい」

 えい、と選んできた服をユウ君の体に合わせてみるお姉さん。


「あ、ああ……でも俺は別にこれでもさっきのでもいいんだけど……」

 そうだねー。

 沢山だねー。


「あらそう~。んー、ユウ君には、もう一つかと思うの……ね?これも試していーい?」

「あ、ああ……構わない。けど、そろそろ香織の服も」

 ああ、そうだねー。疲れたよねー。


「あら、大丈夫よ~。まだ時間はあるし、それに女の子同士でも見に来るもの、それよりも今は、ね?」

「そ、そうなのか……それなら」

 少年よ、負けちゃダメ。


 そしてそれから……。

「やっぱり、最初、の、やつで俺は、いいよ」

「そうねぇ……おばさまには、先に買ってあげてね?と言われてるの。もうお金も頂いてしまったので、ユウ君を一番素敵に見せる服を買いたかったのよ」

 あ、ああ。

 でもユウ君燃え尽きかけてる……よ?


「うふふ、ごめんね、長々とお付き合いさせてしまって」

「い、いや別に。ただ……香織の服が選べなくなるんじゃ、元も子もないかなって。ほら、俺は男だから結構適当な服でも構わないけど……香織は……綺麗なんだし……」

 疲れてても、恥ずかしくても、思ったことを素直に言えるユウ少年。

「……っ!」

 ちょっとどきりとした癒し系お姉さん。


「か、かおりっ!」

 いきなりユウ君の首に手を回して抱き着きます。

「ユウ君ユウ君ユウ君!もう、どきっとさせて悪いヒト……。ユウ君将来女たらしにならないでね?」

 ひそりと耳元で囁くお姉さん。


「お、女たらし……だ、大丈夫だよ……香織以外の女の人を……そういう目でみるつもりはない」

 どきどきしながらも断言するユウ少年。

「もうユウ君大好き~」

「香織……」

 結局いちゃいちゃらぶらぶなのです。



 夏物フェアコーナーの一角です。


「浴衣、って綺麗だなぁ……」

「あら、ユウ君は浴衣好き?」

「ああ。なんかほら、シンプルな色生地に華やかな模様とか可愛らしい柄とかがあって、全部をごちゃまぜにしたような洋服とは違う魅力があるなぁ、って」

「ふむふむ~」

 なるほどーユウ君は、結構きちんと見てるんですね?


「ユウ君はどの浴衣の柄が好みかしら~」

「んー、そうだなぁ、この白地に金魚みたいなのもいいし……薄い桜色も色っぽいなぁ。でもこっちの青いやつも夏っぽくていい……悩むなぁ~」

 そういって、ひょいひょいと適当に指さしていきます。


「うふふ、そうね~。じゃぁ、少し着替えてくるから待っててね?」

「え?もしかして今、言ったやつ全部?」

「大丈夫よ~、それほど量はないし~」

 え、うそ。


「香織って、浴衣の着付けできるの?」

 あ、そーです。

 お店の人に頼むんです?


「あら~、できるわよ?いつかこういう日がきたらいいなあ~って。だから、ありがとうねユウ君」

 そういえば、お付き合いを始めたころに着付け教室がどうのこうの……。

「あ、ああ……」


「どうだったかしら~」

 華やかな美少女によるファッションショー。

 幸運な観客は恋人であるユウ君だけですよ!


「どれも綺麗だけど……その夏っぽくてそれでいて、ちょっとその色気があって可愛いその……薄青と白のグラデが綺麗な奴がいい」

 意外と描写が細かいですね。


「うふふ、ちょっと照れるわね。ユウ君、これが好き?」

「うん……」

「そう……本当なら女の子達で来た時にも買おうかと思っていたのだけれど、これは決まりね」

「あ、でもそういうことなら、無理はしなくていい。嬉しいけど」

「うふふ、気にしないで」

 お姉さんの余裕ですよ。



 服を見終えて。


「お昼は、どこで食べようか?」

「そうね~、レストランエリアとかどうかしら~?」

 ということでやってきましたレストランエリア。

 相変わらずお昼時はすごいですね。

 あ、あそこすごい並んでる。


「おお、廻し寿司がある!」

「あら~、ユウ君も男の子ね、いっぱい美味しいもの食べたい?」

「あ、いや、うん、その……か、香織は何が」

「いいのよ、好きな人が美味しそうに食べてる姿を見たいものなのだから……行きましょ?」

 でもそこ並ぶよ?

「あ、ああ」


 お皿を重ねるのです!


「は、いつのまにかこんなに……香織はいいのか?」

「くすくす、ユウ君本当に美味しそうに沢山食べるのね~。可愛いわ。私は大丈夫よ、ありがとう。あ、でも」

「でも?」

「あとで女の子の聖地、魅惑のスイーツへ付き合ってもらおうかな?」

「お、おう」

 ちゃーんと交渉もするのです。


 メニューやプライスリストが表に出ていない、少し瀟洒しょうしゃなお店です。

「こ、ここに入るのか?」

「そうよ~」

「な、なんかちょっと高級すぎる気が……」

 ここは、かつてユキナさんとゆーこさんがダブルデートしてたときのー。


「大丈夫よ~。見かけはラグジュアリーだけど、中は結構リーズナブルなのよ?行きましょ?」

 ユキナさんから聞いたのね。

「うわー、綺麗な内装だ……しゃ、シャンデリア?」

「うふふ、結構凝ってるわよね」

 ソファーとか格好いい!

 店内もすごく落ちついています。


「お待ちしておりました、山海様ですね?」

「ええ、お願いするわ」

「こちらへどうぞ」

 はえー、予約制なのですね。


「う、ウェイター?の人なのか、なんだか執事っぽいというか」

「ええ、私も最初はびっくりしたわ」

 執事?

「こちらがメニューになります。お決まりになりましたら、こちらのベルを鳴らしてお呼びつけ下さい」

「よ、横文字が……よめない……」

 何語なの~。


「あら~大丈夫よ、そういう文字調で書いているだけだから。ユウ君は軽いものでいいのよね?」

「あ、ああ。さっきいっぱい食べたから」

 お姉さんが、すました動作でちりりんと銀のベルを鳴らします。


「お呼びでしょうか」

 呼びましたー。


「ええ、こちらとこちらをセットで頂けるかしら?」

「かしこまりました。お飲み物はいかがなさいます?」

「ダージリンでお願いね」

「かしこまりました。しばしお待ちください」

 おおう、スマート、さすがお姉さまの余裕だ。


 そして。

「おお、結構可愛らしいな、このケーキ」

「ええ、プチ・フィーユ・ショコラよ。小さな女の子向けなの」

「ぷ……」

 ちびっこ用ですって!


「くすくす、大丈夫よ、そんなに大きくないからそういう名前なの」

「香織のは何?」

 もふぁっとしてますね。

 山っぽい。


「これ?これはサヴォアよ。スポンジケーキなの……うふふ、はい、あーん」

 いきなりの恋人お約束のあーん、です。

「!か、かおり……その」

「大丈夫よ、ね?貴方のお姫様からのケーキをたべて?」

 少し瞳を潤ませて、豪華なカフェの中で、ゆるふわロングウェーブのお姉さまにそういわれたら……。


「お、おお……」

 勿論頂きます。


「うふふ、ありがとう……ね、次は、そのショコラを少しもらえない?」

「あ、ああ」

「うふふ、わかってて間違えちゃだめよ?私の王子様」

 だ・め・よ?とちょっと色っぽいお姉さま、どうしたかおりん!


「……あ、あーん」

「ええ、合格よ……おいしいわあ」

 悪女や悪女がおるー。


「ね、今度はこちらを食べさせてほしいな」

「か、香織」

「だめ?」

 だめじゃないです。



 喫茶店を出て。

「おれ、おれ、香織のこと大好きだけどもう心臓がどきどきしっぱなしだよ」

 思わずふー、と深い息を吐くユウ君。


「あら、私も大好きよ?……それに、私もどきどきしてるわ……ほら……」

 そういって、そっとユウ君の手をとり、それを香織お姉さまのお胸、お胸にぃぃ。

「!か、かおり……む、む、むね……」

「うふふ、ね、どきどきしてるでしょ?……私だって恥ずかしかったりするんだから。好きな貴方だからなのよ?色々するのって」

 ちょっと色気が増した癒し系お姉さまの恥ずかしがった微笑みに、純粋な少年はノックアウトです。


「あ、ああ……」

「ね、どうかしら?」

「とってもやわらかくて気持ちいです!」

「うふふ、ありがとう」

 すばらしい。



 夕焼けが差す、海が見える公園で二つの影が寄り添っていました。


「夕焼けが綺麗ね……」

「ああ。正直、香織に振り回されっぱなしのような気がして、ちょっと情けないかな、って思ったけど」

「あら、私は、そんなことでユウ君のことを嫌ったりしないわ」

「うん。香織がとても優しいのは知ってる」

「!え……ええ」


「だから、その優しさに甘えっぱなしじゃなくて、もっと頼れる男になりたいんだ。すぐにってわけにはいかないが、だから!」

「ゆ、ユウ君……」

「祐樹って、呼んでくれないか」

「!……ゆ、祐樹……ああ」

「好きだ、香織」

 最後はきちんと、男の子してました。


 普段見せない男の子をみせられてドキドキの香織お姉さま。

 

 知ってました?

 

 男の子も成長するんですよ。


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