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夕焼けショコラティエ  作者: 香ノ月 十佳
第一章 新しい恋人たち
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思い出の人

「それでは改めて……初めまして、月川姫奈つきかわひめなさん。先ほど父から紹介にあずかりました嵯峨山健一さがやまけんいちと申します。その……緊張しないで聞いてくださいね?」

 甘いけど誠実さを感じさせるマスクに、優しい声。

 ちょっといいかも。


「あまり、こういったお話に乗り気ではないと、お噂でかねがね聞いております。私も、無理強いすることは嫌いですし、残りの時間、少し外へでて気を紛らわしませんか?」

「よいのですか?健一様は、それで」

「ええ、父と父の会社が、月川さんの会社とうまくお付き合いをさせて頂きたいがために、このような場を設けさせたやに聞いております。申し訳ありませんでした……私どもの勝手で、貴女に不快な思いをさせてしまい」

「いえ……その、仕方がない部分があると思いますの。そう、お気になさらないでくださいね。でもありがとうございます。お気を使って頂いたとおり、正直少し、気疲れが増していまして、助かりますわ」

 いい人だ!


「それほど、あちこち動き回ることはできませんが、まずは庭園へ出ましょう。あそこなら多くのお若い方がいたようです。そちらなら、貴女のお気に召す方と出会えるかもしれませんしね?」

 ご子息さんたちがいらっしゃいます。

「あら、いいのかしら?」

 余裕ですね。大人?


「ははは、大丈夫ですよ。それに、失礼を承知で言わせていただきますと、貴女のことは妹と重なってしまい、結婚相手としてみることはできないのです」

 そっかー、いいお兄ちゃんしてる。

「私、振られてしまいました?新鮮な気持ちですわ」

 もちろんお嬢様ジョークですわ。

「ふふ、初めて笑って頂けましたね。そちらの方が魅力的ですよ?」

 これもイケメンジョークですね。

「あら、口説かれているのかしら、いけない方」

 あらあら。



 屋外庭園まできました。

 ほんとうに華やかですね。あちらこちらで……。

「ではこのあたりでしばらく自由行動としましょう。部屋に戻るのは、そうですね時計の針があの位置を指すまでに、またここでお会いしましょう」

「ありがとうございます」



 優しいお兄さんの嵯峨山さんは、飲み物を取りに屋内にいこうとしています。

 そこへ……。

「あの……どちらか休憩できる場所はご存じありませんか?少し、人酔いをしてしまいまして」

 少し、顔色が悪そうな女の子が助けを求めています。


「ええ、あちらにレストルームとリラックスサロンがありますが……大丈夫ですか?一人でいけます?よろしければ、私が付き添いましょう?」

 紳士です。

「よろしいですか?何分、このような場は初めてでして、どうしたらよいかわからなかったんです」

 ああ、だからエスコート役の方もそばにいらっしゃらないのですね?


「そうでしたか……申し遅れました、私は嵯峨山健一と申します。嵯峨山重工業社長、嵯峨山義一の息子です」

「ご丁寧にどうも。私は、紅葵べにあおいしぐれと申します。その……とある学校で生徒会長をしていますの。ここには父の取引先の関係で招待されましたの。本当に華やかで……びっくりしすぎちゃいました」

 学生さんですね、生徒会長さんですかー。びっくりしますよね!この華やかさ。


「ふふふ。無理しなくていいですよ。私も大学に通っていた頃のいわゆる普通の言葉の方が楽です。ええ。気楽に話してください」

「本当ですか、助かります。ところで嵯峨山様は」

「健一と呼んでください、紅葵さん」


「では、わたしもしぐれ、と」

「よろしいのですか?」

「お互い様ですわ」

 仲良く屋内へ歩いていく二人。

 おやおや、ひょっとしてこの会場の空気にあてられたかな?



 そして時間はシンデレラ。

「や、お互い無事に戻ってこられて何よりです」

「ええ……あら、なにかいいことでもございました?雰囲気が柔らかくなっていますわ?」

 あら、わかります?


「ははは、そうですね……いいことはありましたよ」

 ひょっとして、あの子とですか!きゃー。

「それは、ようございましたわ」

「それでは、そろそろ戻りましょうか……少々茶番を演じなければいけないのが、億劫おっくうですがね」

「ええ、よろしくお願いいたしますわ」

 第二幕開始ですわ。



 両家のパパンが付き添いです。

「さ、今日はもう十分お話、お互いのことをそれなりに知れたかと思う。だが、まだまだ知りたいこともあろう。どうだろうね。このままもう少し、お話を進めてみては?」


「お父様……私、この話はなかったことに……」

 切り出す、姫ちゃん。

「ええ……お互いに、尊敬しあえる関係にはなれますが、対等な一人の男女という視点からでは、まだまだ成長の余地があるように思えます。できれば、一度流してしま」

 そしてそれをフォローする健一君。


「いやいやいやいや、十分気があっているようにお見受けされましたぞ?それにまだたった一回ではないですか!若いお二人のことです、お互いのことを知り成長する機会は今後どんどんと、増えていくに違いありません!月川会長、よろしければ、このまま次の機会も頂いてよいのではないかと」

 この親父はー。

「そうですな。確かに、今までで一番感触がよさそうです。健一さん、もう少しだけ姫奈に付き合ってやってくれませんか。何、まだこれからさき会うからといって、すぐにどうのこうのというわけではありません。こちらも姫奈のことが大切ですからな」

 まぁ、娘の幸せを願う父親の気持ちもわからんでもないですけどね。



 帰りのお車の中でございます。

「いやぁ、よかったよ。どうしてどうして……好感触ではないか」

「お父様……!私は……!!」

「まぁまぁ、姫奈、今日はもう休みなさい。だいぶ疲れさせてしまったと思うからね。ゆっくり休んで、心の整理をつけるといい。そうするとまた違う場面が見えてくるものだ。うん……。一応まだ母さんには言わないでおくからね。それで落としどころ、というところで勘弁してくれないかい」

「もう……そんなこと言われたら断れないじゃないですの……」

 親子の会話というよりビジネスシーンっぽいです。



 一方こちらも帰りのお車の中。

「……健一、お前は私なんかよりはるかに、頭もマスクもいいし、気も使えるいい男だ。ただ、足りないのは社会経験だよ。人脈とコネクション、交渉術、人心掌握術、演説術。人の上に立とうとするなら、まだまだそういった、人とのすりつぶしの中で育つ技術がない。それは、これからの話だ」

 この小説って恋愛ものじゃなかったっけ?ビジネス小説?


「……人脈やコネクションは大切だ、いくらあってもいい。……あの月川のお嬢さんの何が気に入らない。若く美しいことはもちろん、あの歳にして既に多くの社交場に出て、並み居る海千山千と渡り合っているのだぞ?女性としての魅力だけではなく、商業人としても経営者としても魅力的な逸材だ……」

 いるんですよね。こういうタイプのいけいけのおじさま。

「……」

 困るよね?


「今回、月川会長との間でのこのビッグチャンスをふいにし、ご機嫌を損なうことがあれば、我が社の経営に大きく響く。いいか、企業努力がどうの、マーケティングがどうのではない。あの方は巨人なのだ。それだけの力を持っている。儂は……お前やエリに不自由をさせたくはないのだよ。いや、お前はまだ生きていけるだろう。それだけの力がある。だが……まだ学生のエリには」

「妹には関係ないはずだ……今回の件は、私とアナタとの間でだけの話だったはずだ」

 この流れ……。

「そうだな……その通りだ。期待しているぞ?」

「……っ!」

 やはり、卑怯なっ!



 パーティー翌日の、いつもの教室です。お、皆さんざわめいてます。

「転校生だって?」

「珍しいね。この学校って、途中編入とか転校生って基本的に受け入れなかったんじゃなかったっけ?」

「どんな人かなぁ」

 ほー、転校生ですかぁ。


日向俊ひゅうが しゅんです。直前までは、親の都合で海外の学校に通っていました。この度、久しぶりに日本に戻ってきましたので、色々と慣れないことがあろうかと思いますが、是非、皆さんと仲良くしていきたいと思います。よろしくお願いいたします」

 普通の学校だと、これだけさわやかで格好いいハイスペックな男の子がきたら、きゃぁきゃぁなりそうなものですが、ここは一組なのです。

 女性陣は月川さんを除き、すべて愛しい人がいるのです。

 あら、付き合いやすそうな人ね、くらいの感じです。

 でも、月川さんは名前を聞いてどきどきが止まりません。どうしたの?


「……なんだか月川様のご様子が変よ?」

「深山さんも気づかれましたか」

「というより、あそこまでわかりやすいとなると、クラスの女子は気づいていますわ」

「そうね……あんなに目をキラキラさせて乙女していては、何も隠せませんわ……どうしたのかしら」

 本当にね。一目惚れ?


 朝休みの、女の子たちが集う軽食ラウンジです。

「なんか、姫ちゃんがすごい」

 ずずーとストロベリースムージーを頂く川瀬皆八木かわせみなやぎさん。

「ええ、どうしたのかしら……そんなに好みだったのかしら?」

 そっと、ナッツをつまむ島澤さん。

「いつものお嬢様の姿は、どこへ行ったのかしらね」

 おさげ眼鏡は、バナナオレを頂いてます。

「うんっ!なんだか、普通の女の子みたいだよっ?」

 凛ちゃんはおにぎりを食べます。運動部ですね。

「あら~姫ちゃんも普通の女の子なのよ~?」

 ほわほわ山海さんはココアですね。

「近づいてお話ししたいけど、恥ずかしくてできない、っていう風にうろうろしているのが、なんだかみてて微笑ましいね」

 妃さんは顔をテーブルに乗せてむひゅむひゅしています。


「いつもおしとやかで凛としていて、人当たりが良くて物おじしなさそうな姫ちゃんがねー……何かあるわね」

「ええ、一目惚れというには、少し度が過ぎているような気がしますし」

「情報を集める必要があるわね」

 興味津々小悪魔です。



 近くの男子生徒に話しかけるさわやか転校生君です。

「え?生徒会室の場所を知りたい?なんだ日向、生徒会にでも立候補するのか?」

 生徒会?

「ああ、いや、そうではないんだ。知り合いがいるはずでね。できれば挨拶をしておきたい、ってところかな」

 へー。


「ふーん。ま、いいか。生徒会室なら中央棟の四階に受付があるから、そこで用件を伝えればいいはずだぜ?なんだったら一緒に行くか?」

「構わないのかい?」

「ああ……いいよ別に。俺の彼女も生徒会にいるんでね。迎えに行くのに丁度いいしな」

 らぶらぶですね。彼の名前は神楽坂かぐらざかくんで、彼女さんは朱里坂しゅりさかさん。


「ちなみに、知り合いって誰なんだ?」

「ああ、面識はないんだが、紅葵さんという人だ」

「それ生徒会長だぜ?」

「そうなのか?」

「へー、あの人と知り合いなのか」

「いや、直接会ったことはないんだが」

「何しに行くのさ?」

「まぁ、親がらみの話でな、挨拶しておかないと行けないのさ」

「綺麗な人だし、この学校の独り者(シングル)の間でも人気が高いから惚れるなよー」

「ははは……まぁ、放課後よろしく頼むよ」

 これは、もしや。


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