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夕焼けショコラティエ  作者: 香ノ月 十佳
第一章 新しい恋人たち
10/50

夕焼けの天使

 陽が傾いてきた海が見える広い公園です。

 デートの定番ですね。


「い、意外と、手強くないっ?」

 りんちゃん苦戦?


「そ、そうね」

 島澤しまさわさんも心なしか、お疲れです。


「うーん。鈍感系はしんどい恋になるって、わかってはいるんだけど。こう……直接はっきりと訴えるしかないかなぁ」

 経験済みな小悪魔ユキナさん。

 フミ君も鈍感系の過去をお持ちでしたか。


「りりは頑張っている。もし頑張るなら、次は斎藤さいとう君の番!」

 そうだーそうだー!


「えと、私……結構楽しかったけど……その、だめ?かな」

 上目遣いな天使莉理花さん。

 それは斎藤君に使ってあげなさい、きっと喜びます。


「ううんっ!だめじゃないっ!」

「うん。いいんだよ!楽しめたことはそれで……でもね」

 フォローに入る凛ちゃんとユキナさん。


「そう……でも好きな人と愛おしい時間を一緒に過ごすということは、とても幸せなことなの。もし、佐藤さんと斎藤さんが嫌でなければ、そうなってほしいな、と思うのよ」

 前髪ぱっつん黒髪ロング古風美少女が、そのあふれんばかりの包容力をもって優しく微笑みながら、静かにお話ししてあげました。

 笠薙かさなぎ君のこと、本当に大好きです。


「りり……あと一歩、踏み出すの。勇気をもてば恋の花は開くの。大丈夫……斎藤君も、本当にりりのこと、なんとも思ってなければ、ここまで付き合ってはくれていないの。りりが一歩を踏み出して、斎藤君にも勇気をあげるの」

 実は、園上そのうえさんも結構必死です。

 大切な親友の恋心がかかっているのです。


「ええ!男の人って結構繊細なのよ?」

 そうらしいですよ?

「そうだよねっ!」

 やっぱりそうなのですね。


「それに、かわいいりりちゃんを振ることなんて、できないよ、大丈夫!」

 ええ。無理だと思います……可愛すぎる。

「自分の心をみつめて、好き、という優しい気持ちを、分けてあげて?」

 まるでお姉さんのように、長女で頑張ってきた佐藤莉理花さんに語り掛ける島澤さん。


「みんな……うん。私、がんばる」

 女の子たちの思いが伝わりました。




 少し離れたところの野郎ども。


「はっはっはっは、実に今日は楽しかった」

「ええ。童心に帰ったようでしたよ。若干凛たちの視線があれでしたが」

「わかってくれる、優子たちはいい女だ、斎藤にはこういうことが必要だったんだ」

「結構はっちゃけたねー。デートもいいけど、こうやって男同士馬鹿をやるのも楽しいね」

 男たちは、純粋に馬鹿遊びを楽しんだようです。

 サバゲー風ウォーターガンアトラクションなんて、女の子には不評でしたけど。


「本当だなー。すっげー楽しかった。みんなありがとうなあ」

 斎藤君も、とってもいい笑顔。

 しかし……。


「だが……」

「ああ……」

「うむ。ここからは一人の男の時間だ」

 大丈夫、彼らはみんな愛を知る男たちなのです。


「あそこまでされて気付かない斎藤君もすごいけどね」

 何されたのっ!……気になる。


「……みんな何を……?」

 まるで、戦友に裏切りを告白されるかのごとく、真剣になる雰囲気。


「斎藤君……我々は君に対して非常に好印象をもっている。それはわかってほしい」

「ああ、そうだ。よき友人としてやっていけそうだ。だが」

「ああ、俺でもわかるぞ。あの可愛らしい佐藤さんがずっと、斎藤だけを見つめていたことを」

 大人たちに、いや、友たちに言われるその言葉。


「あの熱い視線と、時折あった、触れ合う機会、まさか何も感じなかったなんていわせやしないよ?」

 フミくんの切れ味も鋭い、真剣なんだ。

 だから。


「……本当は、わかってたんだ……。ただ、さ」

 きちんと答える斎藤君。


「ただ、それが本当に異性に、女の子に対する気持ちかどうかが、わからなかったんだ。だってあいつは……莉理花は小さいころからずっと一緒で、いつも一緒で、隣にいるのが当たり前になっていて、特別な感覚なんて何も……なかったんだ」

 綺麗に言葉をまとめることはできないけれど、感じていることを丁寧に拾い上げる斎藤君。


「なんという贅沢な……」

「ああ、羨ましいですね。特に社会人の我々としては」

 思わず漏れる、男たちの羨望の想い。


「斎藤……おまえ、かなり贅沢な話をしているぞ?」

 そうだ、贅沢だ。


「うん……ね、傍にいるのが当たり前になっているくらい、好きな人と心地よい時間を過ごせることが、どのくらい贅沢か、知ってる?斎藤君。僕たちも本当ならユキナたちとずっと一緒にいたいんだよ……でも現実はそうはいかないんだよ」

 フミくんも思うところがあったらしい。

 優しいけど、気付かせるためにあえて強い言葉で話します。


「……」

 拳に力が入り、口を真一文字に結び、瞳を潤ませる斎藤君。

 思いは伝わった?


「答えは、はっきりでたようだな」

 よかった。


「ええ。我々は背中を押しただけ……いや、今まで背中を押してあげる人がいなかったのですね」

 本当に……大変だったのです。

「ああ、これも友人としての役目だ」

 友とは、ありがたい存在なのです。


「斎藤君、いっておいでよ。自分の素直な気持ちを、あの子に伝えてあげるんだ」

 これだけの勇気をくれるのですから。


「みんな……すまない、恩に着る!」

 丁寧に頭を下げる斎藤君。

「おいおい、斎藤君。この場合「すまない」なんて言葉ではないのさ」

「ああ」

「知っているだろう、その言葉」

「ここで間違えた言葉を使うと、佐藤さんにも違うことを言いそうだね」

 夕日が照らす男たちは、実にいい顔をしていた。

 格好いい。


「そうだな……ありがとう!みんな!」

 大事な言葉をみつけ、素直に言える斎藤君も格好いいよ!




 夕日がさす海が見える公園の、白い四阿あずまやの中で二つの影が向かい合っていた。

 一つは友の想いと勇気を得た少年で、一つは友の想いと愛情を自覚した少女。


「莉理花……いや、佐藤莉理花さん!君のことが好きだ!ずっとずっと好きだった。そして、これからもずっと好きでいる!どうか、俺と一緒にいてくれ!」

 大切にしていた想いがあふれた。


「……カズ君……。ううん、斎藤和孝くん。小さいころから私をずっと支えてくれて助けてくれた大切な人。ええ……私もあなたと一緒にいたい、ずっと一緒にいたいんです!」

 愛おしさが胸をつき、大切な告白に応える。


「莉理花……」

「カズくん……」

 見つめあい、ゆっくりと重なる二つの影。



 少し離れた、四阿あずまやがよく見える場所です。


「うんうん。いい光景だ」

「そうだねっ!やっぱこうでなくっちゃ!」

「素敵な二人ね」

「……よかった、本当に良かった」

「苦労した二人が、ようやくお互いの顔をしっかりと見れるようになったんですね」

「ああ、これからも大変なことは沢山あるでしょう。でも大切な人がいれば、乗り切れるものですよ」

「今回、佐藤を斎藤に合わせるかは本当は、少し悩んでいたのだが、やはりよかったと思う。ぜひ二人で幸せになるべきだ」

「そうだねー、好きという気持ちで、いいんだよ、ってことだね」

 本当に、人を好きになるのは素敵なことです。

 みんな、頑張りました。




 休日が明けた、学校の教室です。

 いつものざわめき。


「ということになりました」

 花がほころぶような笑顔で報告する莉理花さん。


「よかったわっ!ほんとうにっ!」

 抱き着いて、心の底から喜ぶ小悪魔天使みゆみゆ。


「そっちもありがとうね?弟妹たち(みんな)の面倒をみてくれて」

 にこにこしながら、周りの友人たちにお礼を言う莉理花さん。


「大丈夫よ、子供は好きだから」

 おさげ眼鏡の工藤三美奈さんは子供好き。


「ええ~、一緒に遊ばせてもらっていい予行演習になったわよ~」

 山海香織さんは母性があふれています。


「むしろ懐かれすぎて、帰るときにうるっときちゃったわ」

 妃が丘佳奈美(きさきがおかかなみ)ちゃんは、ちびちゃんのお姉さんになった気分。


「妃ちゃんは、一緒になって泣きそうになってたもんねぇ」

 むしろ、ちびちゃんの友達!


「みなさん本当にありがとうでした」

「それでっそれでっ、愛しの旦那様とはどんな感じ?」

 興味津々の小動物みゆみゆ。


「えとね、カズ君、手を握ってくるようになったんです。えへへ」

 本当に嬉しそうにお話しする天使莉理花ちゃん。

「「きゃーっ」」


 斎藤君、頑張ってね。


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