夕焼けの天使
陽が傾いてきた海が見える広い公園です。
デートの定番ですね。
「い、意外と、手強くないっ?」
凛ちゃん苦戦?
「そ、そうね」
島澤さんも心なしか、お疲れです。
「うーん。鈍感系はしんどい恋になるって、わかってはいるんだけど。こう……直接はっきりと訴えるしかないかなぁ」
経験済みな小悪魔ユキナさん。
フミ君も鈍感系の過去をお持ちでしたか。
「りりは頑張っている。もし頑張るなら、次は斎藤君の番!」
そうだーそうだー!
「えと、私……結構楽しかったけど……その、だめ?かな」
上目遣いな天使莉理花さん。
それは斎藤君に使ってあげなさい、きっと喜びます。
「ううんっ!だめじゃないっ!」
「うん。いいんだよ!楽しめたことはそれで……でもね」
フォローに入る凛ちゃんとユキナさん。
「そう……でも好きな人と愛おしい時間を一緒に過ごすということは、とても幸せなことなの。もし、佐藤さんと斎藤さんが嫌でなければ、そうなってほしいな、と思うのよ」
前髪ぱっつん黒髪ロング古風美少女が、そのあふれんばかりの包容力をもって優しく微笑みながら、静かにお話ししてあげました。
笠薙君のこと、本当に大好きです。
「りり……あと一歩、踏み出すの。勇気をもてば恋の花は開くの。大丈夫……斎藤君も、本当にりりのこと、なんとも思ってなければ、ここまで付き合ってはくれていないの。りりが一歩を踏み出して、斎藤君にも勇気をあげるの」
実は、園上さんも結構必死です。
大切な親友の恋心がかかっているのです。
「ええ!男の人って結構繊細なのよ?」
そうらしいですよ?
「そうだよねっ!」
やっぱりそうなのですね。
「それに、かわいいりりちゃんを振ることなんて、できないよ、大丈夫!」
ええ。無理だと思います……可愛すぎる。
「自分の心をみつめて、好き、という優しい気持ちを、分けてあげて?」
まるでお姉さんのように、長女で頑張ってきた佐藤莉理花さんに語り掛ける島澤さん。
「みんな……うん。私、がんばる」
女の子たちの思いが伝わりました。
少し離れたところの野郎ども。
「はっはっはっは、実に今日は楽しかった」
「ええ。童心に帰ったようでしたよ。若干凛たちの視線があれでしたが」
「わかってくれる、優子たちはいい女だ、斎藤にはこういうことが必要だったんだ」
「結構はっちゃけたねー。デートもいいけど、こうやって男同士馬鹿をやるのも楽しいね」
男たちは、純粋に馬鹿遊びを楽しんだようです。
サバゲー風ウォーターガンアトラクションなんて、女の子には不評でしたけど。
「本当だなー。すっげー楽しかった。みんなありがとうなあ」
斎藤君も、とってもいい笑顔。
しかし……。
「だが……」
「ああ……」
「うむ。ここからは一人の男の時間だ」
大丈夫、彼らはみんな愛を知る男たちなのです。
「あそこまでされて気付かない斎藤君もすごいけどね」
何されたのっ!……気になる。
「……みんな何を……?」
まるで、戦友に裏切りを告白されるかのごとく、真剣になる雰囲気。
「斎藤君……我々は君に対して非常に好印象をもっている。それはわかってほしい」
「ああ、そうだ。よき友人としてやっていけそうだ。だが」
「ああ、俺でもわかるぞ。あの可愛らしい佐藤さんがずっと、斎藤だけを見つめていたことを」
大人たちに、いや、友たちに言われるその言葉。
「あの熱い視線と、時折あった、触れ合う機会、まさか何も感じなかったなんていわせやしないよ?」
フミくんの切れ味も鋭い、真剣なんだ。
だから。
「……本当は、わかってたんだ……。ただ、さ」
きちんと答える斎藤君。
「ただ、それが本当に異性に、女の子に対する気持ちかどうかが、わからなかったんだ。だってあいつは……莉理花は小さいころからずっと一緒で、いつも一緒で、隣にいるのが当たり前になっていて、特別な感覚なんて何も……なかったんだ」
綺麗に言葉をまとめることはできないけれど、感じていることを丁寧に拾い上げる斎藤君。
「なんという贅沢な……」
「ああ、羨ましいですね。特に社会人の我々としては」
思わず漏れる、男たちの羨望の想い。
「斎藤……おまえ、かなり贅沢な話をしているぞ?」
そうだ、贅沢だ。
「うん……ね、傍にいるのが当たり前になっているくらい、好きな人と心地よい時間を過ごせることが、どのくらい贅沢か、知ってる?斎藤君。僕たちも本当ならユキナたちとずっと一緒にいたいんだよ……でも現実はそうはいかないんだよ」
フミくんも思うところがあったらしい。
優しいけど、気付かせるためにあえて強い言葉で話します。
「……」
拳に力が入り、口を真一文字に結び、瞳を潤ませる斎藤君。
思いは伝わった?
「答えは、はっきりでたようだな」
よかった。
「ええ。我々は背中を押しただけ……いや、今まで背中を押してあげる人がいなかったのですね」
本当に……大変だったのです。
「ああ、これも友人としての役目だ」
友とは、ありがたい存在なのです。
「斎藤君、いっておいでよ。自分の素直な気持ちを、あの子に伝えてあげるんだ」
これだけの勇気をくれるのですから。
「みんな……すまない、恩に着る!」
丁寧に頭を下げる斎藤君。
「おいおい、斎藤君。この場合「すまない」なんて言葉ではないのさ」
「ああ」
「知っているだろう、その言葉」
「ここで間違えた言葉を使うと、佐藤さんにも違うことを言いそうだね」
夕日が照らす男たちは、実にいい顔をしていた。
格好いい。
「そうだな……ありがとう!みんな!」
大事な言葉をみつけ、素直に言える斎藤君も格好いいよ!
夕日がさす海が見える公園の、白い四阿の中で二つの影が向かい合っていた。
一つは友の想いと勇気を得た少年で、一つは友の想いと愛情を自覚した少女。
「莉理花……いや、佐藤莉理花さん!君のことが好きだ!ずっとずっと好きだった。そして、これからもずっと好きでいる!どうか、俺と一緒にいてくれ!」
大切にしていた想いがあふれた。
「……カズ君……。ううん、斎藤和孝くん。小さいころから私をずっと支えてくれて助けてくれた大切な人。ええ……私もあなたと一緒にいたい、ずっと一緒にいたいんです!」
愛おしさが胸をつき、大切な告白に応える。
「莉理花……」
「カズくん……」
見つめあい、ゆっくりと重なる二つの影。
少し離れた、四阿がよく見える場所です。
「うんうん。いい光景だ」
「そうだねっ!やっぱこうでなくっちゃ!」
「素敵な二人ね」
「……よかった、本当に良かった」
「苦労した二人が、ようやくお互いの顔をしっかりと見れるようになったんですね」
「ああ、これからも大変なことは沢山あるでしょう。でも大切な人がいれば、乗り切れるものですよ」
「今回、佐藤を斎藤に合わせるかは本当は、少し悩んでいたのだが、やはりよかったと思う。ぜひ二人で幸せになるべきだ」
「そうだねー、好きという気持ちで、いいんだよ、ってことだね」
本当に、人を好きになるのは素敵なことです。
みんな、頑張りました。
休日が明けた、学校の教室です。
いつものざわめき。
「ということになりました」
花がほころぶような笑顔で報告する莉理花さん。
「よかったわっ!ほんとうにっ!」
抱き着いて、心の底から喜ぶ小悪魔天使みゆみゆ。
「そっちもありがとうね?弟妹たちの面倒をみてくれて」
にこにこしながら、周りの友人たちにお礼を言う莉理花さん。
「大丈夫よ、子供は好きだから」
おさげ眼鏡の工藤三美奈さんは子供好き。
「ええ~、一緒に遊ばせてもらっていい予行演習になったわよ~」
山海香織さんは母性があふれています。
「むしろ懐かれすぎて、帰るときにうるっときちゃったわ」
妃が丘佳奈美ちゃんは、ちびちゃんのお姉さんになった気分。
「妃ちゃんは、一緒になって泣きそうになってたもんねぇ」
むしろ、ちびちゃんの友達!
「みなさん本当にありがとうでした」
「それでっそれでっ、愛しの旦那様とはどんな感じ?」
興味津々の小動物みゆみゆ。
「えとね、カズ君、手を握ってくるようになったんです。えへへ」
本当に嬉しそうにお話しする天使莉理花ちゃん。
「「きゃーっ」」
斎藤君、頑張ってね。