1 転移
次の日の朝、僕が起きたのは自分の部屋では無かった。
体を起こすと、知らない風景が目に飛び込んでくる。
整頓された綺麗な棚、筆記用具の乗る机__そして、壁に吊るされたボードに張られた写真。
これは、自分の部屋ではない。しかし、この風景を僕は知っている。
そして、壁に埋め込まれた鏡を見た瞬間、僕はここが何処なのかを本能的に察知した。
ここは___ソードマジックの、リクの部屋だ。
鏡に写るのは、僕のアバター、リクの姿。だが、僕はこの姿をよく知る。
短い黒髪、背は余り高くなく、太ってもいない。
僕がこの姿をよく知るのは、リクの姿が僕、つまり大田陸の二年前__中学一年の時の姿をそのままゲームに取り込んだからだ。
そこまで考えて、ようやく僕は自分がベットの中に居るままだと気が付いた。
ベットから体を下ろし、改めて鏡を見る。
やはり、リクの姿だ。ゲームと現実のリクの身長を比べると、どうしてもゲームのリクの方が身長が低い。そのせいか、目線が低く感じられる。
もしかして、ここはゲームの世界なのだろうか__
そんな事を考える。本来あり得ない、絶対に起こり得ない現象だったが、現にこうしてリクの姿でリクの部屋に居るのだから、信じざるを得ない。
部屋のドアを開け、廊下に出る。僕の記憶とここが一致しているなら、廊下の階段を下れば、リビングに出るはずだ。そして、リビングと繋がったキッチンがあるはずだ。キッチンの食料庫には、結構な数の食料が保管されている。この体が食べ物を必要とするのかは分からないが、必要なのであればあって損はない。
階段を下る。そこには、見慣れたリクのプレイヤーホームのリビング。そして、リビングと繋がるキッチン。
記憶を頼りに食料庫まで行き、扉を開ける。そこには、リクがゲーム時代に集めてきた食料の山。
パン、缶詰、水、勿論米も。
食器もあるし、調理器具もある。これだけの食料があれば、外に出なくとも一年過ごすのは余裕だ。
危惧すべきは、この家の外が無い可能性。この家がある町とこの家は、移動するときにマップを移動する。その為、家の外と繋がっていない可能性があるのだ。
確める為に、玄関で靴を履き替え家の扉を開ける。
広がるのは僕の家がある町の風景。
早速外に出て見る。
外に出て見ると、風が僕の服を揺らす。
空を見上げると、雲ひとつ無い青空だった。太陽の眩しさが目を眩ませる。
「そう言えば、寝間着のままだったな」
今僕が寝間着のままであることを思いだし、直ぐに家に引っ込む。
そして、リビングのソファーに座った。
ソファーに座りながら、ここが何なのか考える。
VRの類いか?
否、これまで日本ではそのような技術は出てきていないし、外に出た時に感じた感触。あれは、コンピュータ制御のゲームで表せるような物では無かった。現実と変わり無い風景。それをこうして生み出すのは、今の環境では不可能だ。
では、よくあるゲーム世界に転移した状況か。
そうであれば、全ての辻褄が合う。信じられない現象ではあるが、これしか理由として当てはまる物はない。
気を付けるべきなのは、こうした状況下を描く小説、アニメでは殆どの場合死んでしまった場合本当に死んでしまう。
脱出方法も提示されるのが普通だが、この状況でそれを期待するのは無意味だと考えられる。
何故かと言うと、普通のゲームであったのならば簡単にクリア出来る。ゲーム時のステータスを引き継ぐのなら。だが、ソードマジックは難易度が上がりすぎている。例えステータスを引き継ぐのだとしても、まず不可能だ。
そこまで考え、気に留めて置こうと思いながら、僕は家の訓練所に向かった。
この体で試したかった事が有るのだ。
早速訓練所に向かう。
試してみたかった事、それはステータスを開くことだ。
ステータスの開き方は、恐らく「ステータス」と唱える事だろう。
早速唱えてみる。
案の定、電子音と共に一枚のパネルが出てくる。
名前の所にはリク、とある。
そう名乗れば良さそうだ。
レベル、HPと続くのは、ゲーム時代と全く同一だ。
ステータスは戻ってはいない。
だが、ゲーム時代には有ったものが無くなっている。
それはアイテムストレージや設定の画面だ。
ここにあるのはステータスとスキルだけ。
予想通り、ログアウトは出来ないようだ。
その後も、この体を試した。
体力、力。どれも申し分無い所か元の四倍位の力がある。
ステータスがここに現れているのだろう。
後は、武器のある場所だけだ。
恐らく、倉庫だろう。
直行して覗く。
そこには長年使っていた銃と、ライトセイバー。
ここに武器はある。
しかも、装備もバッチリだ。
これだけの装備があれば安心だと、僕は外に出る勇気を固めた。




