12 宣告
ギルドホームのビルを出たリクがこちらに近付いてくる。
俺はリクにナイス、と声を掛けた。
「ザンジもナイス、引き付けてくれなかったら撃てなかった」
「いや、こっちもリクの狙撃が無かったら死んでたよ」
リクは俺を襲ってきた男達の一人の持つナイフを見詰めている。
「どうした?」
「血が付いている。ザンジ、怪我はしていないか」
「していない。ナイフでも斬られてはいない」
「つまり、これは他人の血だ。こいつら、他にも殺してるな」
血がべったりと付着したナイフを見つめるリク。
最初に見たときから他にも殺してるとは予想していたが、本当に当たっているとは思わなかった。
ここで死ぬと、どうなるのか分からないがそれが不明な以上死ぬことは危険だ。
それは誰にでも言える。
「こいつら、眠ってるな。麻酔弾か」
「そうだ。殺すとどうなるのか分からない。眠らせば命を奪うことはない」
俺は改めてギルドホームに向き直る。
帰るぞ、と言う前にリクは歩き始めていた。
そのままギルドホームに足を進め、入り口を通ろうとする。
だが、それは遮られた。
大きな鐘の音。
__ゴーン、ゴーン
響き渡る鐘の音に驚いた俺達は無意識にギルドホームの中に入る。
ギルドホームに入ると同時に鐘の音は止んだ。
「今のは一体なんだ?」
「今は十時だ。メーラは勿論他の町でもプレイヤーは活発に動く時間帯。何らかの意図が__!?」
リクが話す事を止めると同時に、次は嵐のような音が鳴り響く。
反射的に外を見ると、メーラの中央広場を中心に気流が発生している事に気が付いた。
まるでブラックホール。
窓が軋んでいる。どうやら吸い込んでいるらしい。
「ザンジ、踏ん張れ!」
「リクもな!」
引っ張られる力は強くなり、ついに窓が外れた。
ギルドの中まで気流が吹き荒れ、俺は必死に耐えた。
だが、努力虚しく、リクと俺は窓から外に放り出された。
圧倒的な速度でメーラの中央広場まで到着する。
そして、広場に落下する。
周りにも人は多い。ランキングが表示されている所を見ると全員プレイヤーだ。
恐らく1000人は居る。いや、それ以上だ。
こんなにもメーラにはプレイヤーが居たのかと驚く内に、思考は遮られる。
広場からもう一度鐘が鳴ったのだ。
口々に喋っていたプレイヤー達は、鐘の音が響くと同時に沈黙した。
鐘の音が終わる。
終わりか、と思う間もなく次の現象が起こった。
「諸君、この世界は楽しめているだろうか」
機械のような声が響く。一瞬沈黙していたプレイヤー達は、この声で正気に戻り口々に叫びだした。
「楽しめるか!」
「仲間が死んだんだぞ!」
悲観の声を上げる者もいたが中には嬉しく思う輩も居るようだ。
声はそれを無視して続ける。
「この世界は現実だ。痛みから死まで全てがリアルの世界だ」
「君達はもう一つの現実に居る」
俺は響く声の意味を察するのにかなりの時間を要した。
つまり、コイツはこの世界はゲームでも何でもない一つの現実だと言っているのだ。
そして、ここでの死が本当の意味での死だと言う意味になる。
「君達には一つの事をしてもらう」
「それは"創造者の塔"の制覇だ」
「フェイムに存在する全百万層からなる天涯の塔を極めるのだ」
百万。
百万の層の塔。
それを登り切れと言っているのだ。
無理だ。絶対に。
こいつが"天涯の塔"等と言うからには無理な難易度になっているに違いない。
恐らく、俺ら百万レベル帯では不可能だ。
それを察したのか次々にブーイングが起こる。
「君達が塔を極めた暁には報酬を授けよう」
「それは地球への帰還だ」
クリアすれば、地球に帰れる。
その意味を理解するのに数分間掛かった。
百万層であろうと、クリアすれば元の世界に帰れるのだ。
否、こいつは帰れるからクリアしろと言っている。
断ることは不可能に近い。
だが百万……と絶望していた俺の耳に新たな声が響く。
「1万の倍数フロアは町を設置した。そこを拠点にすると良いだろう」
「だが町フロアの一フロア前はボスフロアだ。町フロアと町フロアの間はダンジョンになっている」
「ダンジョンにはテレポート・クリスタルを設置した。触れればランダムで上の層へと飛ばされる」
「塔の解説は以上だが、注意して欲しい。ここでの死が本当の物なのだと」
「健闘を祈る」
声が響き終わり、我先にフェイムへと向かうプレイヤー達。
勿論、その中には俺達も混ざっていた。
2045年12月18日。
それがこの世界の歯車が周り出す最初の日だった。




