10 南エリアへ
僕達は南エリアに進んでいた。
無論、町の様子を確認するためである。
僕のホームがあるのは北エリアであり、南エリアとはかなり離れている。
ゲームでは一瞬で移動できたが、今はそうもいかない。全て徒歩で移動しなければならなかった。一応馬車や飛行船といった移動手段は存在するが、僕のようにソロでプレイするプレイヤーには少々厳しいコストだ。馬車は購入は勿論レンタルでも莫大な費用が掛かる。飛行船は更に高価だ。殆どのプレイヤーは転移魔方陣を使用している。プレイヤーでも転移魔法スキルは会得出来るが、魔法媒体と呼ばれる素材アイテムが必要となり、余り人気ではない。
このような事情から、僕達は徒歩で移動していたのだった。
「それにしても、孤独がパーティーを組むとはな」
ザンジの呟きに、僕はやりたくてやってる訳ではない、と返す。
「そうか、そうだよな。マルチ推奨のゲームでわざとソロをやってる奴は馬鹿だ」
ザンジの返答に僕も頷く。
確かに、僕はわざとソロでプレイしていた訳ではなかった。
初期の頃にソロで定着してしまい、周りに入っていけなくなったからだ。
ソードマジックでは、人気故にソロでプレイするプレイヤーは「ぼっち」等と言われ、差別される事もある。本来ソロはこのゲームでは難しく、昔は尊敬すらされていたらしい。だが今は、「プレイ人数が多いから簡単に仲間も集めれるよね」と逆に忌み嫌われる立場となっている。
嫌な時代にプレイしてしまった、と自分の言葉に心の中で付け足して持っていた双眼鏡を覗く。
今僕が居るのは東エリアの小高い山だ。
ここからなら南エリアは見える。
双眼鏡を覗いた僕は息を詰まらせた。南エリアの一面が黒く染まっている。時々生き残ったと見える人も目に入る。ここからでは体力ゲージは視認できず、プレイヤーかは分からない。
建物も一部は残っているようだが、殆どが崩れて燃え尽きている。
この無惨な光景を自分の目で見て、やはり建造物は破壊出来ないのでは無かったと思う。
恐らく、生物保護結界もその力を発揮していない。この騒動に紛れて盗みや殺しを行う者も出るだろうし、警戒しなくてはならない。
「ギルドホームは、無事だな」
「ギルドホームは無事、か」
「荷物を取りに戻ろうと思う、着いてきてくれ」
言われるままに南エリアを進む。
所々人も倒れており、血や臓物を撒き散らしている姿は見ていて楽しいものじゃない。
建物が倒壊したような所もあったが、無視して瓦礫を乗り越える。
やがて着いたのは、五階建てと見える一軒のビルだった。
入口と思わしきドアの横には、霞んでいるが「月影」と書かれているのが分かる。これがザンジの所属するギルドの名なのだろう。
ザンジが来てくれ、と言うのでその建物に入る。
中は余り壊れては無く、電気が通っていた。
ザンジが照明のスイッチを押そうとするのを手を掴んで制止する。
「他のプレイヤーに気付かれるぞ」
「心配しなくても良いだろうが……まあいい、分かった」
そのまま階段を上まで昇る。
案内されたのは一つの部屋だった。
「ここが俺の部屋だ」
ドアを開けてみると中は他と比べれば遥かに綺麗だ。
奇跡的な事である。
ザンジは部屋のロッカーから鎧を出して魔法収納鞄に入れた。魔法収納鞄は、大きさ関係なく入る鞄アイテムだ。自力で持たなければならないこの世界では重要かも知れない。
「終わったぞ」
「ああ」
「じゃあ、帰るぞ」
その言葉に釣られて帰ろうとした時、僕の耳が誰かが近付いてくる音を聞いた。
待て、と言いザンジを制止し窓の奥を見させる。
「プレイヤーか?」
「分からない。敵かも不明だ。一回接触してみてくれ。敵ならばライフルで援護狙撃する」
僕の言葉にザンジは頷くと、階段を降りて行く。
僕は双眼鏡を構えて遠方の集団を見た。
装備からしてプレイヤーであることは確実だった。
両手剣や斧を装備するプレイヤーも居たが、僕の目は一人の持つ銃に目を吸い寄せられた。
「ドラグノフ改……!」
ソードマジックでは武器をカスタマイズする事が可能で、カスタマイズ素材やステータス分配のデータの事をカスタマイズレシピと呼ぶ。ドラグノフ改とは、ドラグノフ狙撃銃のカスタマイズの内レシピが公開されている物だ。
カスタマイズは本来弱点を補う物であり、ドラグノフ狙撃銃であれば反動の大きさ等をカスタマイズで抑えるが、ドラグノフ改のレシピはそれとは真反対のレシピだ。
野戦や市街地での戦闘用に、威力や初速を高め、弱点である射撃精度も高めたレシピである。有効射程は少し伸びて1000メートルに渡り、狙撃銃として十分なポテンシャルを持つ。セミオートからフルオートへチェンジも可能になっている。
レベル百万帯は勿論千万帯でも十分に戦える銃だ。どちらかと言うと狙撃銃では無く突撃銃として使われることも多い。
十分に警戒しなくてはならない。
ザンジはあちら側に到着したようだがどうやら雲行きが怪しいようだ。
戦闘は避けれないだろう。




