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第二戦


 闘技士は第一戦の終了と共に技巧整備士席へ戻り、各自メンテナンスを受け、第二戦に備える。とはいえ闘技士の戦争はどちらかの霊素反応が消滅するまで終わらない。


 歩いて戻って来れたのはトァザのみ。ティカはラバニスの防護壁に叩き付けられたのでそのま場所ですぐに技巧整備士の施術を受けている。

 私はトァザの技巧を確認してみるが、とりあえず第一戦は一方的な運びとなったため、損傷は無い。第二戦で気になるのは、ラバニスの闘技士ティカのことだった。


「『痛い』って」


「え?」トァザの呟きが何を意味しているのか分からずに聞き返す。


「ティカが言ってた」


「『こんなもんか』に対しての返事?」トァザが第一戦に言っていた言葉だ。あれはアンダーが返事をしていたが。


「いや、ティカが応戦して、貫手をして来た時」


「ティカが言っていたの?インカムには声が聞こえなかったけど」


「いや、目が言ってた。多分声帯が無いのかも」トァザはさらっととんでも無いことを言う。


「どういう意味?」


「頭掴んだ時、首が堅くて、よくわからないけど不自然だった。多分技巧が入ってる。そこからアンダーの声が聞こえたから」


 トァザがラバニス技巧整備士席を見つめる。それに習い、私も眼鏡のレンズで様子を見る。ティカはラバニスの技巧整備士アンダーと補助整備士達に囲まれていて、ティカの姿は見えない。





 第二戦。

 再び闘技場では2人が向かい合っている。

 ティカはまたも沈黙しているが、砕かれた右膝は元通りらしい。


 そこにアンダーはつかつかと歩いてきた。私は固唾を飲んで見守る。


『先程までの戦いは前座ですよ。貴方の戦闘データも欲しかったのでねぇ』


 私は黙ってインカムから会話を聞く。アンダーの顔を望遠で確認するが、確かに口はつり上がったまま動いていない。どうやら本当にティカの内部に組み込まれた技巧から会話しているらしい。

 憎たらしい人形ごっこだ。


『どういうことだ』


『この娘、まだ闘技士としては半人前でね、私が励ましてあげないと『本気』が出せないんですよ』


『……』


『フフフ、第七国家ユグドの国王には悪い事をしてしまいました。天国で娘と再開させてあげたいんですけど。生憎、霊素が無いと闘技士は機能しないでしょう?』


『!? まさか、ティカがユグド国王の娘だというのか』


『……どうでしょうねぇ』





《第二戦を始めます。ラバニス技巧整備士アンダー・アーロンは速やかに防護壁内に退避してください》


 スピーカーから淡々とアナウンスが流れ、会話は中断される。私は嫌な汗がどっと吹き出て、背中を伝う。眼鏡のレンズ越しにアンダー・アーロンの背中を見つめる。アンダーは微かに微笑み、私と目を合わせてきた。


「!!?」


 全身に電流でも流れたように私は本能的恐怖を感じ、直ぐに眼鏡を外す。


 恐らく、アンダーは自身も技巧化している……!?


 私と目を合わせるなんて造作もないことなのだろう。とてもじゃないが、アンダー・アーロンは狂っている。


 私はすぐに手提げ鞄から端末を取り出し、ユグド国王の娘について調べた。なんと恐ろしいことか、ユグド王女の名は、目の前の闘技士と同名だという悲しい事実を示した。


《第二戦》

《現時刻より『円卓』は開戦しました。》


 アナウンスが終了すると闘技場には変化が現れた。第一戦とは違う大仰な技巧の兵装作動音と共にティカの下半身は展開され、フレームと人工筋肉が、噴出されたスモークの中で変化していく。ティカの技巧から吹き出すスモークによって全貌は見えないが、最初はドレスのように脚に纏う布が展開され、そのドレスのような技巧が展開と結合を繰り返す。やがてシルエットは固まり始め、その脚が蜘蛛のように展開している。目を疑う間も無く、スモークが風に流されて確証へと変わる。


 観戦席からおののく声とざわめきが広がる。異形の技巧。それは神話に出てくる哀れな娘 《スキュラ》 に似ていた。


 スキュラ。

 上半身は美しい女性。腹部には三つ首の犬と六本の脚があると言い伝えられている。

 ティカは腹部に、技巧による犬の首を模したレリーフと三つの銃口。そして六本の脚。爪先は矛のように尖り、第一戦に見せた武器と同じ蒼い燐光を放っている。


 ――《最終兵装》……!?


 最高技巧整備士団IDEAイデアの開祖であり、私の祖父マルドゥック・ジャンヌダルクが、当時各国の軍備制度を廃止するために見せつけた圧倒的な力。当時の混沌とした禍災戦争ワールド・ウォーの最中、全てを終結させた圧倒的戦力差。その技巧。


 それこそが 《最終兵装》 。


「ありえないわ……っ!?」


 ……いや、ありえないということはない。


 整備士の技量によって、模造品や特異な派生系は事例もあり、可能である。しかし、《最終兵装》を闘技士に実装するには、最高技巧整備士団IDEAのメンバーでなければならない。そして、 《最終兵装》 を展開するには、世界が武力によって脅かされている状況でなければ、展開は原則禁止であるはずだ。


『慄きましたねぇ…ンフフ』


「!!」


 インカムからアンダーの声が聞こえる。どうやら、私がトァザの体中に集音マイクを取り付けていることも見通し。今取り乱している姿も筒抜けなのだ。


『なぜ最終兵装を作動している! 円卓内での闘技士は武力によって世界を脅かしてはいないっ! ……こんなこと、IDEAが許すとは思えないっ!!』トァザが私の声を代弁して叫ぶ。


 そうだ。この場において最終兵装の展開は必要ない。


『いやいや、そちらの国王は言いましたよ『この開戦によって勝利を収め、ラバニスの愚行をここで打ち砕く』と。そして、連合国に協力を要請して、我が国ラバニスを武力によって弾圧しようとしていることは明白』


『……めちゃくちゃだ』


『私はか弱いラバニスを救済したいだけですよ。ンフッ、フフフッ…クハハハハハ……』


 私は技巧整備士席の椅子から立ち上がりトァザを見つめる。攻撃を捌き切るので精一杯。…かなり押されている。


 こんなはずじゃなかった。

 おかしい。ありえない。


 トァザは闘技場内を駆け回り、ティカの繰り出す六本の矛と、止めどなく吐き出され続ける光弾を紙一重で回避しながら、苦戦を強いられていた。スコールのように降り続ける矛をかわし続けるのは、いくらトァザでも至難の技だ。


 防戦一方。

 私の手はじっとりと汗に濡れていた。

 思考が停止する一歩手前。どうする。どうしたらいい。目の前の状況を打開する術が見つからない。


 やがて、トァザはついに雨に打たれる。槍の雨。矛のスコールを避け続けるのは流石に無理だ。トァザは右膝の技巧を矛に貫かれて動きが止まる。それを見逃すはずもなく、飛びかかる残りの5本の矛がトァザを貫いた。


 全ては一瞬だった。


「トァザっ!!」


《第二戦、終了いたします。技巧整備士は第三戦に備えて下さい》

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