アンダー・アーロン
「これはこれは、技巧整備士が淑女とは、驚きですねぇ」
そういって握手を求めるラバニスの技巧整備士。
深く刻まれた笑い皺は妙に陰惨な印象があり、砂塵に似た渇きを連想させる。どうにも剣呑な痩せ型の中年だ。
「いえいえ、淑女と言えるような人ではありませんよ。私はフィリア・ジャンヌダルク。第六国家ラザンノーチス代表の技巧整備士です。」私は握手に応じて改めて名を名乗る。
「これは失敬、私から名乗るべきでしたね。私は第八国家ラバニス代表の技巧整備士アンダー・アーロン。そしてこちらが闘技士ティカ。
……さて、お隣に従えている彼がまさにラザンノーチスの単機最大戦力ですね」
「えぇ、私のパートナーです」
「噂はラバニスにも届いていますよ、《無敗の黒き闘技士トァザ》 最高技巧整備士団 《IDEA》 の代表ブラッドリー・ジャンヌダルクの娘。その最高傑作」
期待していますよ。とアンダー・アーロンはにこやかに告げる。
「……お詳しいのですね」そう言いながら、心根では特に驚きもしない。私がジャンヌダルク家であることは明白だし、トァザは最高傑作に違いはない。
「…やはり、パートナーとは愛し合っているのですか?」
「は――アイ?」
「そうです。愛。闘技士の材料が死体とはいえ、元は同じ一人の人間。彼のように顔の整った青年の死体に霊素を注ぎ直し、補助脳を埋め込んで自分好みに人間を改造する。それが技巧整備士でしょう? 貴方は女性で闘技士は男です。異性ですよ? 当然『パートナー』かと」
「失礼な、方ですね。……私と彼は互いに信頼しあうパートナーです。貴方の言葉に含まれるような意味はありません」私は毅然と言い放った。「まさか、そう仰るあなたとそちらの闘技士は…」
「『パートナー』ですよ? 朝も夜もね」
私とトァザの目の前でアンダーはティカの腰に手を回し首筋に舌を這わせる。アンダーの舌は蛇のように左右の舌が器用に動き、闘技士ティカの耳朶を左右からつまむ。
「……っ!!」
ティカは無感情な顔で私を見つめる。私は呆気に取られていたが、反射的に目を逸らす。その時に気付いた。私が技巧整備士だからか、女だからなのか――
『ティカの胸は闘技士にそぐわない改造をされている』――それに気付いて、腰や髪や顔を一瞬のうちに確認する。闘技士にそぐわない技巧。
美しくない。美しくない! なんだこの醜悪さは……!!
「どうかされましたかな」アンダー・アーロンは下卑た笑いを浮かべている。
「……いえ、そろそろ開戦ですし、準備しましょう」
どうやらアンダー・アーロンという男は私が嫌いな人間のようだ。




