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第三戦


《…3、…2、…1、》


 その時、『円卓』が騒めく。

 ラザンノーチスからは安堵の声が上がり、ラバニスからはため息とブーイング。


 黒き無敗の闘技士トァザは、闘技場に向かい歩を進める。


 私は力の抜けた全身を補助整備士に支えられて、その背中を見つめる。


『心配かけてごめん……』


 インカムからトァザの声が届いた。


『補助脳が増えたせいで、自分の意識を統一するのに時間がかかったんだ。でも、フィリアの祈りはちゃんと聞こえてた。みんなの祈りも……』


「いいの、いいのよ……ありがとう」私はインカムから聞こえる声に一人返事をする。別にこの声がトァザに聞こえるわけではないが、溢れる気持ちを止めることができなかった。


『沢山の声が聞こえた。霊素だからかな。祈りが聞こえた。 その時に聞こえたんだ。』


『《殺して》って』


「?」


『ティカの声。彼女は今、死んだ肉体の中に霊素魂を閉じ込められ、アンダーに犯されている。救わなければならない』


《『円卓』は、第六国家ラザンノーチスの闘技士トァザの出場を認めます。》


《第三戦》


《現時刻より『円卓』は開戦しました。》


挿絵(By みてみん)


 トァザの霊素は今、トァザ本人の脳と第7頸椎の補助脳、そして《ザルバニトー》の四肢に一つずつ。計6つの脳に複写されている。この問題児 《ザルバニトー》 の失敗は霊素の意識統一の難しさにあった。それが今安定している一番の要因は、親和性の高い神経束と人工筋肉に取り替えた事。そして、トァザと私の今までの信頼関係の変化。強さのみに確執していた 《ザルバニトー》 製作当時の私とは違い、トァザとの絆は強い。


 そして、トァザの強い意志だ。


 ティカを救い出すという揺るぎ無い闘志が 《ザルバニトー》 と呼応する。


『聞こえてるよね。フィリア。ここに誓うよ』


 トァザはインカム越しに私に話し掛ける。誓いとは何か、すぐに理解して、トァザと共に叫ぶ。


「『僕等は、無敗でなければ意味はない……!』」


 『円卓』の観戦席がどよめく。その視線の先にトァザは立っていた。技巧四肢が緋く燐光を放っている。

 ティカは戦闘態勢に入り、6本の矛を負けじと発光させる。


 白と黒の闘技士。ティカとトァザ。

 蒼と緋の燐光。スキュラとサルバニトー。


 両者がぶつかり合うと、力が衝突し、激しい光の粒子が飛び散った。ティカの前脚3本の矛がトァザに向かって突き進もうとするが、火花が散るだけでトァザには届かない。トァザは両掌を前面に向けて展開し、斥力を発生させている。

 ティカの矛は斥力によって滑るように弾かれて、トァザに届かない。


 ――この時点で《ザルバニトー》は未だ最終兵装を展開していない。

 そうだ。この技巧四肢は最終兵装を備えている。


 トァザはゆっくりとティカの矛に手を伸ばし、3本の矛を掴むと、ティカ本体に斥力を発生させて吹き飛ばす。防護壁はこの日3回目の衝撃に大きくたわみ、悲鳴を上げるように音の波を『円卓』全体に響かせた。それに負けない程の歓声がラザンノーチスの観戦席から上がる。それらは混ざり合い、巨大な獣の咆哮のようだった。


 ラバニスの侵略を拒む強い意思。確固たる闘志となりトァザに力を与える。私に力をくれる。


『フィリア。最終兵装を展開する。』


 インカムからトァザが告げる。

 トァザならティカを救える。私は祈りを捧げて見守る。


『《最終兵装・ザルバニトー》展開』


 トァザは呟き、技巧四肢が一層強く燐光を放ち展開する。その光の粒子は技巧の中から溢れ、輪郭を形成し始める。靄のように不定形だった光は少しずつ両腕に集まり、緋い2振りの大剣となった。


『なぜだ!? フィリア・ジャンヌダルクはまだIDEAイデアのメンバーではないのに、なぜ最終兵装を内蔵している………っ!?』アンダーの声が聞こえる。


 その通り、私はまだ最高技巧整備士団IDEAのメンバーではない。それもまた問題児 《ザルバニトー》 の問題児たる所以だった。


『慄いたか………? アンダー・アーロン』


『お前が、…お前が最終兵装を展開するなど、ありえない………!?』


『確かに規定違反だ。しかし、お前が今更それを糾弾できないさ。…俺はラバニスの愚行を打ち砕く!』


 ティカは後ろ足3本では満足に動けず、苦し紛れに腹部の銃口から光弾を吐き出すが、全て斥力によって弾かれてゆく。


『ユグドの王女…今助ける……!!』


 強い燐光のせいか、インカムからの音声は乱れてノイズが強い。

 しかし、そのノイズの中で少女の声が聞こえた。


『…あ、りが……う………』





《第3戦。現時刻をもって『円卓』は終了します。》


 『円卓』のスピーカーは、ティカの活動停止をドローンによって確認し、終戦を告げる。私はインカムを取り外して、一息つくと虚空を見つめた。最後の声はティカの声だろうか。


 『円卓』内は照明に照らされていて、すっかり日も沈んでいる。私は肩の力が抜けて技巧整備士席の背凭せもたれに背中を預ける。トァザがこちらに歩み寄る。


「…お疲れ様」


「何、言ってんの……私の台詞よ」


 差し出されたトァザの手を取って立ち上がると、トァザを1度強く抱きしめ、離す。

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