始まりの町
馬車は順調にアスファルトではない道を歩き続ける。
機械でも何でもない生き物である馬が、きちんと人間の言うことを聞いて進んでいくことに、そんなことにも妙に驚いている自分がいた。
そうこうしているうちに、草木よりも建物の石材が目立つようになってきた。
町に着く。
町についた。
町………町と言うよりも、それは大都会だった。
馬車の上にいる俺たちだが、周囲の騒がしさに、目が回りそうだ。
人、人、人。
ひとが多すぎて道がよく見えないくらいである。
町の規模もそうだが、何より視界に映る人、人。
人の多さ、それはまるで、祭りでもやっているかのようだった。
「うはあああ―――ッ!す、すげえ!」
「大きい町でしょ。びっくりした?ここは『ベイッシュ』という町よ。」
俺の旅路、その第一歩目―――始まりの町。
「うん!うん!今日から俺はここで暮らすのかあ」
「違うわよ」
「え?」
「のんびりと暮らせるわけがないわ―――こちとら勇者よ。旅が、場所、居場所。馬車で世界を廻るわ」
「ん――――」
それは、そうなのか。
確かに勇者だし仕方ないな―――仕方ないのか?
え、マジ?
ホームレスっすか?
「―――あんた、魔王を倒す気はある?」
さらりと質問してきた。
女の子が言うには凄いセリフだ、と思ったことは確かだ。
しかし俺は故郷を離れたことに、言いようのない期待、高揚感を感じていた。
俺はこれから、冒険をする。
「魔王を倒す気が………あるに、決まってるじゃねえか」
にっ―――と、ミキは笑う。
勇者が、表情を明るくする。
笑えば可愛いじゃねえか………。
「まずは装備を整えるわ。えっと、そうねえ―――この辺りでイギラと言えば………ラーベラが近いかしら、今日は陽が落ちる前にそこに行って………」
「いぎら………?いぎらっていうのは、なんだ」
「え?何って………お店だけれど………武器屋よ、武器屋。この町ならいくつもあるけれど」
「う………おおお!」
武器屋だって?
武器屋だと!
「そうか、『武器』か………、確かに魔王を討伐するためには武器が必要だな!」
俄然、盛り上がってきた。
いや、燃え上がってきた、心が。
「そうよ、あそこなら―――」
『待ちなよ、ミキ』
急にどこからか声がした。
どこからか、というよりも、すぐ隣から聞こえた―――。
とっさに振り向く。
目の前に、すぐにでもキスしそうな距離に顔があった。
俺は諸手を上げて顔から離れる………飛びすさる。
馬車に、新しい人が乗っている。
「うわあ!ど………どこから出た、あんた………いつからここに!」
「ミナモ!あんた今更出てきて………何よ、何か文句あるの?」
ミキがその突然現れた不審者に対して、声をとがらせる。
………うん?なんだ、二人は知り合いなのか?
俺は、突然現れた女の子をまじまじと、見る。
女の子………そうだ、服装から察するに女子か………。
いや、察するのが難しい。
この世界の住人は、服装が見慣れないものなので、そちらの珍しさにも目を奪われてしまう。
「文句………っていうほどじゃあないけれど、提案だよ。『モエル』くんだったっけ………あなた」
女の子がじとりと、俺をにらむ。
なんだか、目つきが悪い。
いや、目つきが悪いというより―――なんだ、瞼が半分降りていて。
睨まれている?
「あなたに適切な武器や防具はないよ―――それだけは言える」
「どこから出てきたんだ―――、あんた」
モエルは呟く。
路上には、この町には確かに人が多い。
そこから馬車に飛び乗ってきたのか。
「ミナモ!あんた、今頃起きて………何よ、何か文句あるの?」
「半分は起きていたよ」
「―――そんなもの、同じよ!」
半分起きていた。
じゃあ、今まで寝ていた………?
寝ていたというのはどういうことだ。
ふと、馬車の荷台を見れば。
その中の荷物―――毛布がいくつか、めくれている。
そうか、突然現れたと思っていたが、この子は、荷台にずっといたのか。
俺とミキが喋っている間も、ずっと荷台で寝ていた―――と?
気づかなかった。
ああそうか、瞼が半分降りた目………眠いのか、まだ。
「ええと、文句、と言うか提案なんだけれどね。ミキには何の文句もないよ」
「じゃあ―――」
「モエルくん、君に言っているんだ」
彼女は俺の目を見て、言う。
「私たちと旅をするのはやめたほうがいい―――他を当たるべきだよ」