6月3日
明日わたしは死ぬのだろう。
よく晴れた昼下がり。
私はベッドの上にいた。
『 参ったな…君に会いたくなったよ。』
白い部屋にただ一人。
彼がくれた本は全て読みきって
しまったし。
外を眺める以外にすることもないな。
外には小さな箱庭。
綺麗な芝の中にポツリと咲いたゴジアオイ。
『あぁ…そうか。君もか…』
〜君も死ぬのかい?
私もだよ。でもね。死ぬのは
決して怖いことじゃないんだよ。
君は生きてきて、生きるとはなにか、死ぬとは何か、人生とは何かを理解することができたかい?
私は全くダメだったよ。〜
苦笑する。
でも。それらは決して誰も知らないことだと思うんだ。
ー私は正しい人であろうとした。
彼にしてあげれることは全てできたかな…?ー
いや、出来たはずなどない。…
私は全知全能でなければ
予言者でもない。
そう、私は人なんだ。
流行病に冒され、今日、死ぬ脆い存在なんだ。
そう考えると、不意に手紙を書こうと思った。
彼にこの脆い存在が最期まで君のことを思っていたと伝えたい。
『私はあなたを思い、最期の時まであなたのことを愛しています。私が死んだなら、私の事など忘れて、他の方と幸せに ……
紙を破り捨てた。
はは…文才のカケラもないな…
”私の事は忘れろ”だって…
涙が溢れる。忘れて欲しくない
忘れて欲しいわけがない。
人が死んで一番悲しいことは、忘れられることではないか?
しかし彼を私の死で縛りたくない。
そこで、本に書かれた一文を思い出した。
”さよならはまたいつか会うから云う言葉である。”
そうか、これで終わりじゃないんだ。またいつか。彼に会える。
そう、いつか。いつか。
そう綴ると。
オーキッドの花を添え
窓の外をみる。
あの花は誰にも看取られず死んでいく。
せめて、私だけでも。
箱庭を照らす、ガラス越しの夕日を眺める。
『君と読んだあの本をまた読みたかったな。』
6月4日。
ゴジアオイは枯れていた。
楽しんで頂けたら幸いです
このお話でこの詩はおしまいです。
閲覧本当にありがとうございました!