面接へ向けて
今日も敬語のレッスン。
です、ますはだいたいマスターしたと思うのだが、まだ詰めが甘い。
誠一郎から、普段も意識して敬語を使うように言われた。だが、敬語を使う相手は誠一郎くらいしかいない。
夜、寂しかったので、誰か友達はいないかと携帯をいじったが、友達はいないらしい。全部会社という分類に入っていた。
しかもリストラされたのなら、なおさら会社の人と連絡をとる訳にいかない。
仕方ないので誠一郎にメールを送った。
返事はしばらくしてからあった。使い慣れない携帯で時間がかかったようだ。
思えば私はスマホだが、誠一郎のこの携帯はガラケーである。そりゃ返事も遅れるわな。
私は再び部屋の掃除を始めた。
きちんと片付ければいい部屋なんだけどな……と思いつつごみ捨ての日程を確認した。
翌日、起きるとまた電話が鳴っていた。誠一郎からだ。
「早く開けてくださいー!!」
なんだ、もう来たのか、と思いつつドアを開ける。すると大きなバッグを持った誠一郎が焦りながら立っていた。
「この格好で待っていると近所の人から何か言われるかもしれないじゃないですか」
と言いつつバッグを開けると、パーカーとジーンズを取り出した。
「ちょっと着替えますので向こうを向いていてください」
言われてその通りにする私。
でも、よく考えたら自分の着替えなんだから気にすることないんじゃない?と思った。だから、振り向いた。
すると誠一郎が、
「エッチ!!」
と叫んで枕を投げつけてきた。
「えーっ、だって、自分の身体だよー?」
「それはそうですけど……」
「枕まで投げなくていいと思う」
「それはそうですけど……」
私は思いきって質問をした。
「エッチっていうけど、あなたこそ私の身体で変なことしてないでしょうねっ?!」
一瞬誠一郎の目が泳ぐ。
「やっぱりなにかしたんだ!!」
と叫ぶと、誠一郎は
「身体を洗うときに……その、どうしても触らないといけなくて……」
とおどおどして答えた。
「ホントに身体を洗うときだけ?」
「ええ、それは本当です」
誠一郎がまっすぐ見返してきたので、そこは信じることにした。
今日は面接の練習だ。
誠一郎が質問してきたことに私が答える。単純なようで難しい問題だった。
「以前の会社を辞められた理由はなんですか?」
「えーと、会社でリストラにあって……」
「えーと、を言わないで、リストラにあいましてとそこは敬語で!」
「会社で大幅なリストラがありまして……」
難しい。
「弊社をご希望になる理由はなんですか?」
「弊社?」
「うん、自分の会社のこと。へりくだって弊社というんです」
「希望した理由……」
「御社の考え方に納得するものがありまして、とか、うまいこと言って」
「御社の方針に共鳴する部分がありまして」
「おっ、すごくいいね!」
難しい。頭が沸騰しそうだ。
それから一時間ほどして、昼食を買いにいくことにした。
「今日はスーパーで買うから」
と私が言うと、驚いた様子で誠一郎がこちらを見た。
「毎日コンビニのご飯じゃ身体に悪いから」
「りょ、料理できるの?」
「一通りはね」
「でも、昨日夕飯作るの手伝ったら珍しいって……」
「あんた勝手にそんなことしたの?!」
私がものすごい勢いで食って掛かったので、誠一郎はキョドり始めた。
私は家では家族にあまり関わらないようにしてきたのに……!
そこに深い意味はなかったのだが、門限さえ守れば自由だったので、そうしてきた。家族という一括りに縛られたくはなかったのだ。
「す、すみません……」
誠一郎が謝る。
「もうしてしまったものは仕方がないけど、今後そういうことはしないで」
私は冷たく言い放った。