ご飯
コンビニに到着。沙織はパンの棚の前で一生懸命パンを選んでいた。
俺は弁当のコーナーで牛丼とおにぎりを二つ買おうとしていた。
「ちょっと待って」
と沙織が言う。
「あんたそんなに食べるつもり?」
「そんなにって……お昼ご飯お弁当小さいから軽めに、と思って」
「これ一個で充分!」
と差し出してきたのは焼きそばパン。
「私、太りたくないから」
「こんな少しじゃ絶対足りないよ……」
俺の嘆きも虚しく、焼きそばパン一つとなってしまった。沙織はコロッケパンを一つだけを手にしてレジに向かおうとした。
「俺の身体にそれじゃ、絶対足りないから!」
と俺が無理矢理おにぎりを二つ手にとってかごに放り込んだ。
「仕方ないなぁ……」
沙織は諦めて買うことにしたらしい。
「あ、飲み物も買おう」
と沙織がレジ前でターンした。
俺はもう少しでぶつかりかけたのだが、避けてしまった。ぶつかっていたら元通りかも……なんて思ったが、そう簡単にはいかないだろう。あの時は頭を強く打ったのだ。今ぶつかってもただ転ぶだけで、頭を打つことはないだろう。
気を取り直して、ジュースのコーナーへと移動する。コーラを手にした俺を片手で制してそうけんみ茶を二つ買う沙織。
「太りたくないって言ってるでしょ」
俺は泣く泣くコーラを棚に戻した。
支払いは沙織がした。
「小遣い少ないから使いたくないの」
と言う。俺はこれくらいの出費なら、まあいいかと思ったので沙織に払わせた。
荷物を持つ沙織。
「手伝おうか?」
と聞くと
「これくらい男の仕事でしょ」
と言う。
買い物を終えて帰宅すると、
「あぁー、お腹空いた!」
と買い物袋を下に置いて沙織が言った。
「腹減りましたね……」
俺の言葉遣いをまたしても指摘してくる沙織。
俺よりも沙織のオネエしゃべりのほうがよっぽど怪しいと思うのだが。
俺は弁当と焼きそばパンを頬張った。
口が小さいからか、なかなか食べ終わらない。
沙織を見ると、早々に食べ終わってしまい、おにぎりを片手に悩んでいた。
「どうしたんですか?」
「いや、足りないな、と思って」
そりゃそうでしょう。大の大人が、しかも男性がパン一つで足りるわけない。
「食べちゃってください!」
「でも、これ以上太るのは……」
沙織の言いたいこともわかる。
でも三十過ぎた男の身体だし、俺はデブだ。
沙織が、ふと、
「ねぇ、ジムに通ってみていい?」
と聞いてきた。
お金的な面は貯金があるから大丈夫だろう。しかし、なんでまた?
「身体、引き締めたほうが就職活動にも有利だと思う」
「確かに……」
今まで考えたことはなかったが、沙織なら鉄壁の意思で通い続けられるかもしれない。
「お任せします」
と俺は返事した。
三日坊主の俺の身体だ。もしかしたら三日で止めることになるかもしれない。でも、今は沙織を信じてみようという気になった。
沙織はタウンページを見て、近場のジムを探す。
即断即決だ。頼もしいのか、危険なのか、諸刃の剣だと思った。
今日は一日、そんなこんなで終わった。
夕方になり、俺は門限ギリギリまでアパートにいると、沙織に見送られて家路についた。
家につくと、ただいま、とだけ言って自室に上がる。
昨日と同じ格好で階下へ降りた。
母親が夕食の支度中だった。
俺はなんとなく母親に近づくと、
「なんか手伝うこと、ある?」
と聞いた。
母親は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたが、すぐにニッコリと笑い、
「じゃあ、サラダを作ってちょうだい」
と言った。
俺は母親の横に立つとレタスをちぎり始めた。
こういう生活もいいな……
と思い始めた。