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一人

俺は鍵を受け取ると、まず近場のモールで下車して、合鍵を作った。

それから再びバスに揺られて交通センターまで行く。そしてバスを乗り換えるとアパートまで行った。


部屋はとても綺麗に片付けられている。

俺は洋服や下着類をまとめて紙袋に入れた。


そして、ふと見るとタバコと灰皿が綺麗な状態で並べて置いてあることに気づく。――そうか、沙織はタバコを吸わないんだ……

思ったときには、もうタバコに火をつけていた。

いつものように、深く吸い込む。

「う、うぇぇえー」

俺はすぐにタバコの火を消した。


こんなに不味かったっけ?


トイレに駆け込み、嘔吐した。吐いて吐いて、やがて胃液だけになったころに吐き気が治まった。全身冷や汗である。

暖かい季節だというのに、寒気がした。


タバコってこんなに酷いものだったっけ……?


思い返すだけで吐き気がしそうだったので、窓を開けて空気を入れ換えた。


タバコ……いつから吸いだしたのだろう?思い出せないけど、大学一年のときにはもう、吸っていたように思う。

しかし、こんな酷いものを吸っていたなんて、自分が信じられなくなる。

どうせ沙織も吸わないだろうと、タバコを箱ごとゴミ箱に入れた。


そして鍵をかけて再びバス停へと行った。

着替えるのを忘れていたが、まあ、いいことにしよう。

手ぶらじゃ何だから、ケーキでも買っていこう……

そのとき、初めて財布の札入れを覗いた。


ありえない。


財布には十万円ほど入っていた。まさか、これが小遣いじゃないだろうな。

そうか、問題集とか、課外代とか……

にしては高すぎる。

授業料?にしても高すぎる……

後できちんと聞いて確認せねば。


そう思いながら、ケーキを四つ買った。


それからまたバスに揺られて……

病院についた頃にはお昼をとうに回っていた。


鼻唄混じりに病室へと足を伸ばすと、中からにぎやかな笑い声が聞こえてきた。


ガラッとドアを開ける。

まだいたのか、秀臣!


俺は咳払いをすると、沙織の元へドスッと荷物を置いた。

「痛い、痛いじゃないのよ!」

「……痛くしたから」

そう言ってケーキと鍵を置いて出ていこうとしたそのとき、秀臣が

「じゃあ、僕、そろそろ行くんで」

と席を立った。

「えぇー。まだいいじゃないですかぁ」

「彼女のお見舞いの邪魔をしたらいけないからね」

そう言って、病室を出ていったのだった。


「やけに親密そうでしたね」

俺は嫌味たっぷりにそう言ったが、沙織には通じていなかった。

「そーぉ?彼、すごくいい人なんだよ!」

「すごくいい人かどうかなんて、一日二日でわかるものですか?」

俺は冷たくそう言う。

「うん、話が上手でね、私、思わず笑っちゃった!」

全然通じてない……

イラッときた俺は、思わず怒鳴った。

「人をはねておいて物損にしてくれなんていうやつを、軽々しく信用するなよ!!」

シーンと静まり返る。

「……なにそれ。人を信用しちゃいけないってこと?笑っちゃう。そんなんだから友達も一人もいな――」

俺は壁をドンッと強く殴った。

怯える沙織。

「そんなんだから、って何……?」

沙織は焦って答える。

「い、今のは間違い、ね?」

「お前にわかってたまるか!」

そう言うと泣きながら走って病室を出た。


辛かった。悲しかった。悔しかった。

沙織のいう通り、俺は誰も信用なんかしていなかった。

だから、いつも一人だった。

好きで一人でいるもんか。俺だって友達欲しかったよ!!だけど、しょうがないじゃん!!


俺は急いでバスに乗り込むと、秀臣の姿を、見つけた。

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