事故
私はジムで腹筋の訓練をしながら思った。
化粧、教えたけど、大丈夫かなぁ……
私は腹筋を一、二回ほどしかできないので、腹筋もどきをして腹筋をつけていく。
今日もストレッチは痛かった。
出来るだけ身体を前に後ろに倒すが、腹肉が邪魔をしてうまくいかない。筋力がないせいもあるみたいだ。
「ふぅ……きっつーい」
隣にいた男がぎょっとした目で見てくる。しまった!また女っぽかったか?
男は目をあからさまに逸らした。だから、オカマじゃないって!!
「しかし、あんたはなんだね、筋力がなさすぎるよ」
「はぁ……」
「今までどうやって生きてきたのかね?」
「まぁ……適当に」
と、適当に返事を返す私。
腹筋が終わったら背筋だ。どちらかというとこちらの方が得意らしい。
そして今日もウォーキングマシンに乗る。昨日のドジを考え、恐る恐るマシンに乗る。今日はゆっくりにしておこう。そう思ったのだが。
「もっと速度あげていいぞ……五分くらいしたらまたゆっくりに」
宮本さんが言ってきた。仕方ないので言われた通りにする。
だが、やはり足がもつれてしまい、
「痛〜い!もう!」
また隣の男に変な目で見られた。
今日はさらに胸筋をつけるためのマシンにもトライした。全然動かせない。
「う、動かせな〜い」
筋力のなさにがっかりした。
帰り道、誠一郎に電話をする。
「やっほー!元気してる?」
『お昼間会ったばかりじゃないですか』
「冷たいなぁ、もっとテンション上げてよ」
『テンションって言われても……』
「そうだ。お風呂もう入った?」
『いいえ、今からです』
「洗面所にメイク落としがあるから使ってよ。必ずメイクは落とすように!」
『はぁ……わかりました。どんなものですか?』
「オレンジのボトル。クレンジングオイルって書いてあるからすぐわかるよ。クレンジングしたら必ず洗顔してね。洗顔料も近くに置いてあるから」
私は言いながら自転車にまたがった。
『それじゃ、また明日』
と言って誠一郎は電話を切ってしまった。
まあ、いいか。自転車漕ぎながらだと話しにくいし。
それにしても冷たいなぁ。もっと優しく話を聞いてくれたっていいのに……
と、自転車を漕いだ瞬間、何かにぶつかった。
自動車だ!
と気づいたときには遅すぎた。
私は横からぶつかられる形で倒れた。
自動車の運転手がこちらへやって来る――
そこで意識を手放した。
ピッピッという電子音が聞こえる。
目を開けると見知らぬ天井だった。そのまま横に視線を移す。
ピッピッという音の正体はこの機械から発せられていた。
なんだか身体中が痛い。
少し手を動かしてみる。
「痛っ」
点滴をされている。
その声に反応した人物がいた。
「あっ、気づかれましたか?先生!先生お願いします!」
運転手だ。
私はどうやら、事故で気を失っていたらしい。
先生と呼ばれる人物が私の目をライトで照らしてくる。
「もう大丈夫でしょう。あとは打撲と捻挫だけです」
と言い残すと部屋を出ていった。
後に残された私は運転手を見やる。
「ホントにすみませんでした!!」
と謝る運転手。
「いいえ、こちらも不注意だったわ」
その言葉に
「え……」
と反応する運転手。
「大丈夫だって言っただけ」
「あ、あぁ、すみません。ちょっとまだ動揺してるみたいで」「何時ですか?」
「え?」
「今何時ですか?」
「あ、あぁ、八時を回ったところです」
私は慌てて電話を探した。
「電話、電話!!」
「携帯でしたらお預かりしていますよ」
「貸して!」
半ば強引に奪い取ると、誠一郎に電話した。
「もしもし?うん、私。昨日ちょっと事故しちゃって、私、今病院にいるのよ。ちょっと待ってて」
と誠一郎を待たせると運転手に聞いた。
「ここ、どこの病院?」
「日赤病院ですが……」
「あ、もしもし?日赤病院だって。うん……うん、よろしく」
と言って電話を切った。