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遂に、この日が来てしまった。
『見学会会場はこちら』という案内板を見つめながらそんな事を考えていると、
「どうしたの?早く行きましょう?」
不思議そうな顔で声を掛けてきたのは、我が母、中島智子である。おっとりとした顔をしているが、料理の腕はなかなかのものだ。兄妹の間では、父の胃袋を掴んで結婚したのではないかと信じられている。
「ごめんなさい。立派な学校だなぁと思って。」
「ふふっ。見学が始まったら思う存分見たらいいわ。行くのは明里なんだもの。」
「はは・・・・。お母さんも行くと思ってるんだ、私が?」
「努の学校見学にもついて行ったからね、図書館は見たことがあるのよ。明里は、すぐ気にいると思うわ」
そのような、たわいない話をしていたら、集合場所である食堂に到着した。中高一貫なので、食堂は広く感じる。
(授業が一斉に終わったら混むだろうなぁ。あっ、だから、お兄ちゃんいつも弁当なんだ。納得した。)
そんなことを考えながら空いているテーブルに座って待っていると、背後から声がした。
「すみません、お隣空いているかしら?」
「はい、空いてますよ。」
「ありがとう。」
隣に座ってくるのは、男の子らしい。
(スポーツがりで、体格がいい・・・・。スポーツ入学かな?)
と勝手に思っていると、視線を感じたのか声を掛けてきた。
「なに?」
「ゴメン!!体格いいなぁと思って。スポーツかなにかやってるの?」
「野球やってる」
「本当!!ポジションは?」
「ショート。」
ショートだって!?守備の花形じゃないか!!
「野球好きなのか?」
「えっ、分かる?」
「うん。顔にでてる。」
(そんなに、分かりやすい顔してたのか~。)
あまりに恥ずかしさに思わず顔を逸らしてしまった。
「面白い奴。俺、立川勇気よろしく。」
「私は、中島明里。こちらこそ、よろしく。」
私達は、熱い握手を交わした。
その後、母の予言どうり素晴らしい図書館を目にして私は、受験をすることに決めた。
しばらくして、私は立川少年がゲームの攻略対象だと思い出した。
全然、ゲームと違うじゃないか!!