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思考が停止する。
本当に、今、それを体験する機会があるとは思わなかった。
「余ってない?まともに食べれるカレーならなんでもいいんだ!!」
「タイミングが良かったわね。作り過ぎて、どうしようか迷ってたところなの。」
「食べさせてください!!俺のグループの為にも!!」
「私は問題ないわよ?明里は?」
突然振られて、思わず頷いた。
「ありがとう!!命の恩人だよ!!」
満面の笑顔で感謝されながら、再確認した。
ここが、『乙女ゲーム』の世界だということを。
私は、このゲームをやった時に初めて攻略したのが、今、カレーの鍋を嬉しそうに持っている、寺岡 猛 、芸名はタケルである。
なぜ、攻略したか?ゲームの中での彼は、攻略しながら尻尾の幻が見えるほどにイヌに見えたからだ。
ペットを愛でる用に、又、無意識にライバルキャラまで出現させて順調に攻略していた。ライバルキャラも、いいキャラをしていたので交流していた。
しかし、『乙女ゲーム』とはそんな生易しいものではなかった。
攻略対象である『タケル』の好感度がマックスになった瞬間、ライバルキャラにライバル宣言をされてしまったのだ。
『これから、あなたは私の恋のライバルよ!!馴れ馴れしく声をかけないで!!』
その頃には、『タケル』よりもライバルキャラに愛着を持っていたためショックを受けてしまった。
その宣言以降、遊びに誘っても断られ、挨拶すれば敵意丸だしの顔を見るハメになり、エンディングを迎えても、申し訳ない気持ちになってしまったのだ。
だから、高校生になったらスルーしようと思っていたのだが・・・・こいつも中等部からのエスカレーター生だったとは。油断した。
「この礼は必ずするよ!!何がいいかな?」
「いらないんで、さっさと自分のグループに戻って下さい。」
ここは、突き放すに限る。ライバルキャラの子と仲良くなる為にはそれがいい選択だと悟った。
不満そうに、もう一度何か言おうとした寺岡君だったがそれを遮るように別の声がした。
「猛!!他のグループに迷惑かけるなっていっただろう。何をしてるんだ?」
ジャージを着た立川少年だった。




