道化師の思考
つまらないな。
恥も外聞もなく媚びを売ってくる香水臭い女も、 プライドもなくへりくだってくる低俗な男共も 。
暇潰しにすらならない人間達に愛想を尽かした俺は、金だけ置いて店を出た。
アルコールで火照った体に、冷たい夜風が心地いい。
「憂斗君。もぉー何で出てっちゃったの?みんな驚いてたよぉ」
「ごめんごめん。ちょっと酔っ払っちゃった。気分悪いから今日はもう帰るわ」
「えぇー大丈夫ぅ?......心配だしぃ、沙希がついてってあげよっか?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」
「でもぉ......」
急に店を出た俺を追いかけて出てきた女が、俺の腕をとりながら上目遣いで聞いてくる。
さすがに自分の魅せ方をわかっていているからか、かなり可愛らしかった。
けどこういう女は苦手だ。少し優しくしたらすぐ付け上がるし、少しでも辛くあたったらヒステリック確定。
「すごく嬉しいんだけどさ、俺の隣の奴、遼護が君のこと狙ってたみたいなんだよ」
嘘だけど。アイツの好みは清楚系。こいつみたいにケバい女じゃない。
「アイツ俺の親友だからさ。相手してやってくんねぇ?」
「えぇーでもぉ」
と言いつつ、この女の興味が遼護に移ってきたのが手に取るようにわかる。
所詮こいつも金が目当てなだけで、俺に興味があるわけじゃない。
「じゃあ、他の奴らにもよろしく言っといてくれよ。今日はごめんな。埋め合わせはまた今度!」
今の終わり方はちょっと強引だったかなと思いつつ、面倒になってそのまま歩きだした。
戸惑った女の声が、耳に障ってうざったい。
「あーだる」
路地裏に俺の独り言がよく響いた。すぐ隣にある壁に喧騒が反響して音がボヤける。この音はわりと嫌いじゃなかった。世界に収容されているような、それでいて隔離されているようなあいまいな境界線が、俺の心を落ち着かせてくれるからだ。
「う......うぅ............」
そうして喧騒に耳をすましながら歩いていると、どこからか雑音が混じった。眉を潜めて音源を探ると、少し手前に女が倒れていることに気付く。ワンピース一枚だけという無防備な格好で路地に転がる女。全体的に白いから、暗い路地裏で異様に目立っている。
......そいつを拾ったことに理由などなかった。強いて言うなら、こいつの髪が黒髪ロングのストレートだったこと。
見た目清楚なこの女は遼護に対するちょっとした土産になるだろう。
予想外に軽い女を俵担ぎにして、それからこれじゃ人拐いに見えると思い、横抱きに直す。その振動にも目を冷まさないこの女は、筋金入りの鈍感だ。
心地いい喧騒の中、そのまま謎の女を抱えて俺は帰宅した。
その女が今後、俺にどんな影響を与えるかも知らずに。