騒音
ここまでの爆音があったからには、もう寝たふりは効かないだろう。
そろそろ起きるか。
「あの、おはようございます」
場面に圧倒されて大きな声も出ず、ただ二人の方に伝わってないかなと思い、ゆっくりと頭を下げた。
「おはよう、行弓君。体調の方はどうだ?」
「大分元気になりました、心配かけてごめんなさい」
「なぁに、君の体調が一番大事だ。元気になって良かった」
などと温かい会話の途中にあの男が割り込んできた。
「私はダモン・クオイア。趣味はダンスと日本文化に触れること。よろしく」
俺の寝ているベットに近づいてきて、手を差し伸べた。握手かなにかの、要求だろうか。俺は外人で陰陽師の人間なんて初めて見た。これでも長年、陰陽師の機関で雑用し続けたが、外人の陰陽師なんて噂にも聞かなかった。なんだか、複雑な気分だ。俺も同様に手を出し、固く握られた。
それにしても、随分と元気がいいなこの人。さっき踊っていたのもそうなのだが、なんというか全身から凄まじいストレッチパワーを感じる。筋肉が凄い、汗が凄い、あとオーラが凄い。まるでアスリートだ。
そして、さっきから日本語がとても上手だ、外国人がよくやってしまうアクセントミスが一切ない。元々、日本在籍なのだろうか、親しくなったら尋ねてみよう。
「やっぱり朝の運動は最高ですね、五百機さん」
「あぁ、最高に迷惑だ。二度とするな。じゃないと」
ばきぃ!!!
「このようにお前のラジオをぶっ壊すぞ、分かったな」
え!! もう壊しているじゃん!! 全く執行猶予なんてなかったじゃん!!
……と思ったら、よく見ると全く壊れていない。おかしいな、確かに腕に潰されるのを俺は見たし、潰れる音も聞いたのだが……。
いや、待てよ。そもそもである、女性一人の素手で、ラジオなんて破壊出来るのか? たいして、振り被った訳でもないし、力を込めていたようにも見えなかったし、どういうロジックだ?
「ほら、何をぼさっとしているんだ、朝礼を始めるぞ」
そういやぁ、時計は見ていなかった。今は……七時十分。
「えっと、五百機さん? 朝礼って何時からですか?」
「8時半からだが……、あっ」
じゃあ、まだもう少し寝ていても良かっただろう。別に五百期さんは俺とダモンを起こしに来たのではなく、ただ騒音のクレームを言いに来ただけだったな。
「ごめん、日頃の癖でなんか言っちゃった。ほら、百鬼夜行にはルーズな奴が多いから、私もこんな感じになったんだよ」
確かにそれは分かるな~と思いつつ、結局もう目が覚めてしまった訳なので。
ベッドから体を起こした俺なのであった。