ダウン
……なんだ、さっきから。
具合はこの場に到着する前から悪かった。朝から頭が痛かったし、それは車で移動中に悪化していったのは、感じていた。
だが、何なんだ。だんだん痛みが増している気がする。
「ん? 行弓君、どうかしたのか?」
全員が俺の異常に気が付いてしまった。もう誤魔化せないか。
「すいません、なんか朝から頭痛がさっきから止まらなくて」
「大丈夫かい? それは大変だ、君はもう仕事をしっかりやってくれたよ。あとは私一人でも十分なくらいだ。そうだな、教育係の五十鈴ちゃん、彼をホテルの部屋に送ってくれる?」
「了解です、行こうか」
俺は五百機さんの方に担がれながら、二人でホテルに戻った。振り向き様に三人の顔が見えたが、かなり心配そうな顔をしていた。初日から迷惑かけちまったな。ホテルに戻るまでは、ずっと五百機さんから『なぜもっと早く言わなかった』とか、『私をもっと頼ってくれ』とか言われ続けた。
確かに俺は今でもあんまり百鬼夜行の面々を信用していない。
だからこそ、こんな迷惑を掛けた。認識の甘さという俺の人生の課題が、こんな展開でも足を引っ張る。
俺は部屋に戻った後、すぐに眠った。だから、その後のことがどうなったのか、全く知らない。だが、推測するに俺はあの後からずっと眠っていたようだ。
で、この部屋には勿論、あと二人の人間がここに来る予定だった訳で。
まあ、非常に描写しにくいのだが、説明させて頂くと。
ラジオが鳴っている、始めはテレビの音かと思っていたのだが、テレビの画面は真っ黒のままなので違う。そう思い、辺りを見渡しているとラジオという音源を発見した。この音で、俺が目を覚ましたのは、言うまでもない。
さらにシュールなのは、その音楽に合わせてラジオ体操のごとく、ストレッチのようなことをしている、筋肉質の黒い大男がいたのだ。しかも妙に上手な鼻歌交じりで。さぞかし楽しそうに。
俺はまず飛び起きて、警察を呼ぼうと考えたが、下手に動いて奴を驚かせてしまえば、俺の身が危ない。ここは冷静に寝たふりをしている。
こいつはまさか、村正先生の陰陽師が率いる小隊を、たった一人で倒した百鬼夜行の黒人陰陽師なのか。いや、そうとしか考えられない。
あまりの大迫力に怖くて体が硬直している、出来たら全力でこの場から逃げ出したい。でも体が動かないんだ、なんたる不幸。
そっと不自然じゃないように、枕の上の顔の角度を変え、奴を観察する。
肩にタオルを掛けているぞ、意外に似合うな。ん? 何だ、あのタオルの柄、なにか文字が書いてあるぞ。……『真選組』。あの黒人は一体何者なんだよ!!
そろそろ起きて、コンタクトを取ろうかなっと思ったその時である。
俺達のドアがひらい……違う、ぶっ壊れた。
「五月蠅いわ!! 他のお客様の迷惑だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この怒鳴り声と共に、パジャマ姿の五百機さんが登場し、思いっ切り黒人を蹴飛ばした。
ごろごろと回転して壁に激突し、腰をさすりつつ立ち上がる。
「何するんですか、五十鈴さん。そもそもこの部屋には鍵が掛かっていたはずですよ」
「そんなもん壊した。それより他に眠っている人や、病人だっているのに、隣の部屋まで聞こえる音量でラジオを聞くな!!」
「うぅぅ、すみません。私、日本の文化は分かりません」
「安眠妨害の禁止は万国共通だろうがぁぁぁぁぁ!!」
「はいいぃぃぃぃぃ」
なんかあなたの怒鳴り声の方が、よっぽど安眠妨害で他のお客さんのご迷惑で、ドアの破損はホテルの迷惑なんじゃね。なんて言える状況じゃない。