手柄
「我々百鬼夜行は、妖怪の悩みを解決することになんの惜しみも感じません。そんな怪物の為に呪縛から解放されず自由になれないなんて、我々は困っている妖怪を絶対に見捨てません。火の中だろうと、海中だろうと、喜んでこの身を捧げましょう。やはり信頼関係を築くには、行動あるのみですよね。百鬼夜行の熱き魂をここに証明しましょう。さあ、私の可愛い部下達、妖怪の自由を守る為に、人類の自由を守る為に、全力で戦いましょう」
「「おぉ!!」」
さっきまで完全に無言だった俺の後ろの連中が揃って声をあげた。
全く、思いっきり手柄を横取りしやがって、リーダーって本当にいい御身分ですね、あの展開まで持って行ったのは全て俺だっつーの。
「ぼぼぼ……すいません、怪物を見張っているとか嘘です。我々は日頃から何もしてません。仕事が嫌で威圧感だして皆さんを追い返そうとしました。ごめんなさい」
とうとう戦闘の海坊主が真実を打ち明けた。声がしょんぼりしている。
「いえいえ、構いませんよ。別に何とも思っていませんから」
営業スマイルで返事をするリーダー。『別に何とも思っていない』か、それって言っている本人はそのままの意味で言っているんだろうけど、聞き手には嫌味にしか聞こえないんだよな。もしかしてワザとだろうか。
家族の雰囲気はどす黒い雲に覆われたかのように、どよーんとしていて皆下を向いている。中には泣きそうののを必死に我慢して啜り声を出している奴までいる。
「嫌だど、父ちゃん。俺はニートになんかなりたくない」
俺の視界には先頭の一体以外は、あまりはっきりとは見えてないので、どいつが言ったのかまでは分からないが、比較的幼い声が確かに聞こえた。
そうだ、この日本にニートになりたくてなった奴が何人いるだろうか。
『仕事をしたら負けだと思っています』なんて思っている奴もいるのだろうが、俺のように実力が無くて、職場から追い出された人だって多いはずだ。
いざ仕事を始めれば、行きたくないと思うようになるのは至極真っ当なことだが、子供の頃に始めから無職でいいなんて思っているような奴はいない。
こいつらの中の何体が、妖怪としての仕事の放棄を意識していただろうか。恐らく陰陽師と妖怪との関係について正しく理解していた奴だっていたはずだ。自分達は捕獲不能だから、昔から人間と仲が悪いから、面倒くさいから。そう言って自分の殻に閉じ籠ってしまっていた。烏天狗と同じ典型的パターンだ。
皮肉としては、こんな自分達の裏事情があったことを知らずに生活していた若い世代である。仕事という概念すらなかったのだ。そして今日初めて、自分達の生き様が怠惰であったことを思いしらされた。これほど不快なことはないと思う。