海原
我々、百鬼夜行の一味は海に来ていた。
ささやかな海の臭いが心地よい、誰も人間がいなく壮大なこの光景を独占できるのは、非常に嬉しい。
梅雨は過ぎてくれたようだ、素晴らしい快晴だ。
砂浜というものを久し振りにみたが、思ったよりサラサラしているなぁ。
波の動きが穏やかだ、この海から全ての世界に繋がっているのかぁ……。
過剰な風景描写による現実逃避終了。さて、仕事だ。俺達に遊んでいる暇はない。
「で、今回のターゲットはどんな妖怪なんですか?」
俺の一言に反応して、五百機さんが随分と古そうな巻物らしきものを袖から取り出した。
そこに写っていたのは、木製の船を沈める坊主頭の黒い巨人の姿があった。恐ろしいのは人間が本来持つべき体のパーツがないのである。顔は不気味で虚ろな大きい円状の目のみ、さらに肩から下の腕がない。海に隠れて足は見えないのだが、あるのだろうか、これは。
「『海坊主』ですね」
俺の声に反応し、三人が首を縦に振った。
「いやぁ、本来は彼らの習性的は夜行性だから、夜に迎えに行ったほうがいいんだけど、夜はパーティするって決めてたから、無理言ってこの時間にして貰ったんだ」
別に夜に来れば良かったじゃないか、馬鹿らしい。
「前回、私と鶴見で向かった時は、夜だった。しかし駄目だった、そもそも奴らは陸地の近くに来ること自体を嫌がっていた。式神になる話なんて全く聞いて貰えなかった」
そうだろうな、大妖怪は基本的に人間を嫌う、引き籠り癖のある奴は、よりいっそう厄介だ。
「おい、誰のこと言っている」
ポケットの中から誰かが念力を送ってきたが、今は構ってあげられる状態じゃない。これから大切な仕事が始まるのだから。
で、一体俺は何をすればいいのだろうか?
「そろそろ待ち合わせの時間だ」
待つこと二十分、ようかく海に変化が現れた。海面が突然上昇し、あんなに綺麗だった雲が黒く豹変した。辺りの海の波が激しくなり、これは酷い状況に。
「おいおい、すげえな」
「お出ましのようですねぇ、お兄さん」
海から顔を表したのは、俺の視界を埋め尽くすほどの大きさの化け物だった。
「えっと、これ一般人に見られたりとかしてないですよね」
「していませんよ、私がちゃんと結界を張りました」
追継の言葉を聞いて安心したのもつかの間、更なる恐怖が俺を襲う。
なんと右から二匹目が現れたのだ、……いや、左からも坊主頭が。
おいおい、ぞろぞろ増えていくぞ。
「どうやら群れのようですね」
群れ!! 群れだと!!
「「「ぼっぼっぼ、コンバンワ」」」
家族全員の元気のいい挨拶に、今は『こんにちは』だっ、とか。何だその笑い方は、とか突っ込む余裕など何処にもない俺であった。