男装
「そうなのか? でも声はちゃんと男だぞ」
鶴見の方はそんな細工されてなかったから、見た目や言動ですぐに女性だって分かった。しかし、リーダーの方は全く分からない。
「声に関してはちょっと特殊な機械を使っています。首を注目して下さい」
本当だ、何か変な黒い小型の機会がくっついている。
「ボイスチェンジャーの役割がある機械です。隊長はあの機械で声を男性音に変えています。まぁ、あとは変装と演技ですよ。百鬼夜行の隊長は男装が趣味の変態さんなんです」
……なるほど、これは強烈だ。『お姉』ならぬ『お兄』だった訳だ。
「なぁ、追継。変装の達人として、あの隊長の変装をどれくらい凄いと評価している?」
「そうですね。正直、あの人は変装に関しては一切の妖力を使用していません。全て一般人にでも可能な範疇でのお遊びです。演技については、満点ですよ。だって本人が演技だって意識してないですから」
なるほど、根っからの変態って訳だ。
「さて。はいはい、全員注目して」
両手をパンパンと叩き、四人を振り向かせた隊長。
「さて、僕の可愛い部下達よ。新メンバーも揃ったことだし、気合いを入れて頑張っていこうか。行弓君、今日の夜に残りの二人も帰ってくるから、お祝いパーティをしようね。でもその前に仕事だよ、ここにいる全員で、今から海に行きます」
ここにいる全員ってことは俺も巻き添えか、しゃーないな。
で、何で海なんぞに行かなきゃいけないんだ。
「すいません。前回、私の失態のせいで」
不意に五百機さんが、言葉を漏らした。
「いいよ、いいよ。元から捕獲不能級の妖怪の説得なんて元から失敗覚悟でやっているんだから。だから今日は皆でお願いに行って、勧誘に成功すれば問題解決だよね」
「おい、失態ってどういうことだよ」
小声でちょうど近くにいた追継に、話掛けてみた。
「捕獲不能レベルの妖怪の勧誘なんて、いくら条件を出しても、成功する確率は非常に低いです。仮に上手くいっても、この前の鶴見と牡丹燈篭のように関係が希薄になり、裏切られてしまう可能性もあります。今から向かう場所の妖怪さんですが、この前に鶴見と五百機さんの二人で担当したんです」
「で、向かったところ失敗したという訳か。そこで、リーダー自らが出陣し、いかに本気かをアピールする。さらに俺の交渉力とやらも計算に入れているって具合か」
「察しが宜しくて助かりますよ」
だが、海にいる妖怪か。俺の住んでいた笠松町は、海に面していなかった為、川に住む妖怪には知り合いがいても、海に住む妖怪とはあまり面識がないな。初回から役に立たないかもしれないぞ、俺。
「よし、じゃあ元気よくシュッパーツ!!」
この隊長さん、本当に元気がいいな。まだ、名前も聞いていないんだが。
そう思いつつ、俺は一番に部屋を出た。
「あの~、リーダー。この恰好のことなんですが」
「あぁ、これから一か月間はその状態ね」
後ろから何やら変なやり取りが聞こえたので振り向いてみると、また泣き崩れた鶴見の姿があった。
海に向かう間の車の中で、追継が彼女の新たなる名前を『ぼたお』と命名したらしい。