親玉
いる、この部屋の向こうに百鬼夜行の親玉がいる。
「入ります」
二人にそう宣言し、正面を向くと俺は、鶴見の個室に入った。
そこには……驚くべき光景が。
鶴見牡丹は、なぜかそこにはいなかった。
そして、……見知らぬ二人の……男が。
「どうだね、鶴見君。生まれ変わった自分の姿は。惚れ惚れするだろう」
「…………死にたい」
「いやぁ、素晴らしい。最高に輝いているよ。鶴見君。ところでこの後暇なら、ぼくと一緒にナンパにでもいかないかい」
「丁重にお断りいたします」
え? なんかこの男達。俺をそっちのけで、ナンパとかなんとか言っているぞ?
「ん? あれ? ゆきゆ……ぎゃあああああああああああああああああ!!」
嫌そうな顔をしている方の男が、大声をあげた。まるで絶叫マシーンに乗った、女子高校生のような……女子?
「いやぁ、見ないでよ。行弓君。うわぁぁぁぁぁぁん」
頭を抱え、膝を地面に着き、泣き崩れた。
ああ、こいつが何となく誰なのかようやく分かった。この声で。
「お前は鶴見牡丹か、なんで男の恰好をしているんだよ」
どうやら間違いないようだ。よくよく観察すると、面影がぴったしである。
鶴見は何も答えず、ただ指でとある男の方を指さした。もう一人の方である。
「何で泣いているのだ、鶴見君。君の今の姿は完璧だ。誰にも恥じることはない」
そう言って、嬉しそうに眺める男。服に特徴は無い、普通のサラリーマンが来ていそうなスーツを着ている。違和感といえば、身長が低いことか。鶴見よりか少し高いってくらいだ、服はオーダーメイドかな?
「えっと、百鬼夜行のリーダーさん。ですよね」
「いかにも、ぼくだよ。橇引行弓君。ようやく七人目が来てくれたか。心から歓迎するよ、嬉しいかぎりだ。おっと、彼女が気になるかい。これはちょっとした、お仕置きだよ。任務成功祝いと関係ない一般人を巻き込んだ罰の、両方の意味を込めてね」
つまり、あの爆発事件の罰がこの男装をすることって訳だ。
軽いよ、軽すぎる。ふざけんな、何人の罪なき人の命が危険に晒されたと思っているんだよ!! って言わない方がいいな、下手に機嫌を損ねた時に、俺には反撃して勝てる自信が無い。
「……ボス。刑が軽すぎます」
なんと俺の代わりに、遅れて部屋に入ってきた五百機さんが言ってくれた。苛立っているのが、良く分かる。一緒に追継も入って来た。
「……まぁでもさぁ。行弓君を捕獲する任務は成功した訳だしさぁ。大目に見てあげようよ。本人もこの通り反省しているよ」
本来制裁を下す側の百鬼夜行のボスが、逆に鶴見を庇っている!!
「ボスは甘すぎます。だから我々の機関としての統率が乱れるのです。これはあまりにも、鶴見の為になりません」
「まあまあ、ちゃんと今度、五十鈴ちゃんの変身もアシストするからさぁ」
「私にそんな趣味はありません」
何なんだ、一体。この百鬼夜行という機関は。全然、実態像が掴めない。
「お兄さん、気付いていないだろうから、言っておきます」
いつの間にか、追継が俺の傍まで来ていた。そして、俺の耳にこう囁いた。
「団長も女です」