役目
さて、俺は百鬼夜行の七人目として、受け入れたようだ。恐らく、さっきの五百機さんの発言から、仕事も用意されてあるところからして、そう思った。勿論、全面的な信頼を得たとは思っていないが、ある程度俺という存在を受け入れて貰えているようにみえる。
だが、俺は鶴見牡丹と三日前に敵として、思いっきり戦った。一回、振払追継の聞き入れを拒絶している。参加の際だって、要求を呑むというかたちで入隊したのであって、別に俺から望んだ訳ではない。
普通ならろくに信頼されていない状況が妥当に感じる。スパイと疑われても、何も可笑しくないはず。
なのに、どうして俺に個室まで与える? 仕事とは一体なんだ?
俺は確かに、妖怪を大切に思ってきた陰陽師だ。だが、方針が同じというだけで嫌がっている奴を、頑張って引き入れようとする理由は何だ? そこまでして欲しいほど、強い陰陽師でもないだろう。むしろ、俺は落ち毀れだ。最近だって、戦歴は悪くないように感じるが、根本的な俺の弱さが緩和された訳ではない。
飛鳥の闘いだって、あれは飛鳥がぎりぎりまで手を抜いて、わざと負けてくれただけだ。鶴見との戦いだって、もともと鶴見牡丹と牡丹燈篭との陰陽師と式神としての関係性が不安定だった。しかも、牡丹燈篭の能力は高かった物の、純粋な実力があったとはいえない。そもそも俺は鶴見自身とは戦ってないのだ。
結論、俺は引き入れるだけの実力を持った人材とは考えられないのだ。
「橇引行弓、どうした? 急に黙って?」
「すいません、考えごとです。皆さんはどうして俺を仲間にしたかったんですか? 俺は皆さんが思っているほど、戦闘で役に立つ陰陽師ではないですよ」
…………。二人が顔を硬直させ黙った。
「そうか、当然の質問だな。君の実力は我々も知っているさ」
知っているだろうな、少なくとも追継の方は。一代目から俺の弱さを聞いているだろうし。……どんな説明を聞いているか、かなり心配だな、今思えば。
「だから君に戦闘の仕事を任せる気なんかないよ。君のする仕事はもっと別のジャンルだ」
俺をどこまで信頼しているのか、の質問は控えよう。その質問自体で関係に亀裂を生む気がするな。
それより……俺は、俺自身はこの百鬼夜行にいることをどう思っているのか。別に俺は全国の陰陽師を襲って回るなんて真似さえしなきゃ、百鬼夜行という機関の存在自体はありだと思う。基本理念とかも、他でもないこの俺が、駄目だと思う訳がない。ただ、世間に受け入れて貰えてないだけに感じる。
ただ、俺が機関に貢献することはどうなのか、陰陽師を襲う仕事には、参加しなくてよさそうなのだが。
俺は特にスパイ活動をする気もない。この部屋にないパソコンをこの個室に用意してくれるようには要求する予定だが、それを使って元機関に連絡を、なんて考えてない。もし、俺が百鬼夜行のメンバーに、俺の声で陰陽師襲撃の廃止をメンバー全員に納得して貰えたなら、それで万事解決のような。鶴見牡丹はそんなに積極的に感じなかったし。
……いける。名付けて、『真の平和を望むなら、潜入して内側から改善大作戦』だ。ネーミングセンスの悪さには、目をつむって欲しい。いいじゃん、いいよ、百鬼夜行に入った意味あったじゃん。
「それで結局、俺のここでの役目って何なんですか?」
さっきまで少し静かだった追継が、この質問は答えた。
「それはですね、お兄さんにはこれから、捕獲不能レベルの妖怪の勧誘をお願いしたいのです」