気絶
白い壁、白い天井、白い布団。
目を覚ますと、そこはまるで病院の個室だった。
「えっと、あれ? もしかして俺って気絶してた?」
改めて名乗らせて貰おう、俺の名は橇引行弓。特に何もしない陰陽師という異名を持つ、俺が正式には機関に陰陽師だと認めて貰っていない、放置状態の陰陽師かぶれだからだ。
「俺は確か提灯の爆発を止めにいって……どうなったんだ?」
そもそもここはどこなんだ? ベットの上ってことは、やっぱり病院なのかな? 取り敢えず体を起こし、腰を曲げて、辺りを見渡す。
大きな窓がある、ベットから離れていて、カーテンが閉まっている為に、外の風景が拝めないが。あと、テレビにエアコン、冷蔵庫。勉強机の様なものまである。まるで寮の部屋みたいだ。置物や絵画などは、一切ないが。
時計を発見した。今は早朝六時、やばい朝練に行かなきゃ、部長が待っている。それから鶴見の監視と、飛鳥への謝罪と……。
その時だった。ドアにノックが掛かり、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おーい、お兄さん。朝ですが、まだ絶賛気絶中ですか?」
二代目振払追継の声だ。そうか、俺は烏天狗の受け渡しの際に、百鬼夜行に入隊するって交渉していたんだ。ってことは。
まだ返事をしていないうちから、追継ともうひとり青い髪の見たことのない巫女服を着た女が入ってきた。身長は女性のわりに高いイメージ、年齢は俺と同じくらいにみえる。……あてにならないけど。
「気分はどうですか? どこか痛みます?」
追継がベットの傍まで来て、何気ない感じで尋ねる。
「いいや、寝起きでちょっと頭が痛いけど、いつものことだから」
そもそもあの鶴見牡丹との戦闘で、俺はあまり肉体的なダメージは受けていない。あっ、そう言えば。
「おい、飛鳥やよつば。あと他の奴らは? 鶴見はどうなった?」
「大丈夫、死人はいない。お兄さんの力で誰も死なずに済んだよ。その他の詳しい経緯は把握してないけど、討伐隊の奴は解雇になったらしい。飛鳥さんや御上ちゃんのことは、ちょっと分からないな。牡丹ちゃんなら、別室だ。さっき、ここに来る前に寄り道したんだけど。ちょうどリーダーからの説教タイムだったからね。まあ、無事かと聞かれるなら、あの子も無事だよ。お兄さんより早く目を覚ましたくらいだし」
そうか、皆が無事なら俺はそれでいいや。今は人の心配より自分の身の安全の確保に専念しよう。
「お前がいて、鶴見がいるってことは、ここはお前たちのアジトの中って考えていいのか」
「その通り、ついでに言うなら、この部屋はこれから君専用の部屋になる。必要最低限の用意はしたけど、置きたい家具とか生活必需品とかあったら、ここにいる五百機五十鈴に頼んでくれ」
頼むって、この人は一体何なんだ、さっきから無言で俺のこと見つめているけど。
「あの五百機さん、あなたも百鬼夜行のメンバーですか?」
「そう」
ようやく口を開いた。かと思うと、急に脅す様な怖い声でこう言った。
「貴様の教育係だ」