相棒
まるで烏のような嘴をした顔、黒い羽毛に覆われた体を持ち、大きな漆黒の羽で自立飛行している。通常の天狗と同様に、山伏装束をしていて、手には赤い棍棒を持っている。腰に茶色の縄をぶら下げ、酒の入った瓢箪を括り付けている。
烏天狗。俺の初めての相棒であり、親友。捕獲不可能認定の大妖怪の中の大妖怪だ。その鋭く、尖った目は今でも全く変わっていない。
「……行弓か。随分と大きくなったな」
「おぉ、あれから三年とちょっと経ったからな。俺のこと、憶えているかよ」
「お前みたいな馬鹿は、忘れたくても忘れられん」
馬鹿か、成程。その通りだ。だって俺は、陰陽師になって二年目くらいの頃、侵入禁止の看板が着いている、こいつの住処の山を無断で登り、すぐに見つかって怒られて、泣かされて、帰れなくなったと言って泣き喚いて、二人でなんとかして山を下りた。俺と烏天狗との初めての出会いだった。
その後も俺は、大人に何回注意されても、友達がいるからと言って、話を聞かず会いに行き、その度に怒られて……。
気づいたら、烏天狗は山から抜け出させることに、成功していた。
「百鬼夜行とかいう連中に、妖怪を解放する闘いに協力してくれって頼まれたよ。全く、わしは別に他のどこの妖怪がどうなろうと知ったことじゃないのじゃが、本当にまぁ、面白くもない話を聞かされた」
「お前って、割とその辺は割り切ってるよな。結構」
前にも説明したが、妖怪は仲間意識が高く、他の妖怪との絆を大切にする。だが、この烏天狗だけは、違った。何せ、この俺が山から引き摺り下ろすまで、ずっと一人山に引き籠る生活をしていたらしい。筋金入りのニートじゃねえか!! って初対面の時に言って、泣かされた。
「わしはそんな生温い助け合いがしたくて、お前の式神になった訳じゃない。ただ、お前に恩返しがしたくて、……わしを救おうとしてくれた少年に、何かしてあげたくて、わしはお前の傍にいた。その他大勢の人間も、陰陽師も、妖怪も知ったことか。わしはお前とわし自身だけ守れればそれでいい。あの山の住民だけ平和ならそれでいい。わしはそう思っている。状況はある程度、追継に聞いている。もし、お前が死にそうというのなら、わしはお前だけを、助ける。式神としての使命とやらを全うしてやろうじゃないか。だから……」
「駄目だ!!」
俺は初めて、こいつに向かって大声で叫んだ。俺は初めて、烏天狗との友情にヒビが入るようなことをした。仮にも、俺の味方だと言ってくれ、助けてやるとまで言ってくれた相手に、俺は怒声を浴びせた。
烏天狗は、黙って俺を見ている。そうだ、俺もまた、陰陽師として、相棒として、しっかり答えを返さなきゃいけない。
「俺もさっきまで、全くお前と同じことを考えていたよ。俺の周りの人間だけ救われればいい。俺との関係が無い人間がどうなろうと、俺には関係ない。そう結論を着けていた。ほら、俺って凄まじく弱い陰陽師だったからさ、誰かを守るとか、見知らぬ人も助けるとか、これっぽっちも頭になかったんだ。だけど何となく分かった、俺はお前のいうところの、もう少年じゃない。俺は陰陽師の一人なんだ。」