烏天狗
百鬼夜行への入隊。俺は当初、このお誘いを断った。妖怪を大切にするという考えには、大いに賛成なのだったが、あまりにその為に行っている行為が酷過ぎる。俺と百鬼夜行は分かり合えない。そう思ったからだ。
じゃあ、何で百鬼夜行は俺を仲間に入れようとするのだろうか?
俺がそこまで重要な何かを持っているとは、思えないのだが。
「行弓君、口車にのってはいけません。冷静になって下さい」
飛鳥の言おうとすることも理解出来るのだが、実際問題、ここでこの誘いを断ったら、多くの人々が死ぬ。しかし、俺が昔の式神を取り戻したところで、あの爆発を止められる保証なんてどこにもない。
「ハイリスク、ローリターンって奴か」
別に俺は、英雄になりたいなんて思って戦っているのではない。今日の俺の行動は何一つ、俺の理想に反してなどいない。だが、ここで百鬼夜行に加入してしまうことは、俺にとって理想を裏切ることになる。
だが……。
あの場所は、俺の生きてきた場所だ。殆ど嫌なことばかりだったが、それでも思い出の詰まった俺の故郷だ。そして、そこにはまだ、俺が消えてほしくない、人達がいる。何より、今俺の隣にいるよつばを、悲しませたくない。失敗したって、死体が一つ増えるだけだ、成功したら……その時考える。この状況で細かいことを考えていられるか!!
「ごめん、飛鳥。俺はやっぱりこの町を諦められない」
そう言うと、一反木綿の裾を力強く引っ張り、まだ体に巻きついている布をほどきながら、よじよじと上に上がり始めた。一歩間違えれば、墜落死だな、こりゃ。
「追継、とっとと相棒をよこせ。入隊してやるよ。その、何とか夜行」
その言葉を聞いて安心したのか、追継はにっこり笑うと、式神である狐の背中に乗って、俺の捕まっているところへやって来た。
「行弓君、本気ですか」
「まーな、安心しろ。お前が守れって言われているのは、よつばだけだろ。俺が死んだって誰もお前を責めやしないよ」
「そういう問題じゃないです。あなたが百鬼夜行に入隊するというのなら、私と行弓君は敵同士になります」
「そうか、ならこの事件が終わったあたりに殺しに来い。お前なら、油断さえしなきゃ、俺を倒すごとき朝飯前だろ。抵抗しないから、一思いにやれ」
俺は、そういうと近くまで来ていた、追継からお札を受けとった。四年前まで使っていた、赤と黒で彩られた、このお札。中には俺の昔の式神である烏天狗が眠っている。
「お前に会うのは久しぶりだな。きっと俺のことなんて、忘れているだろうけど。……悪いが、働いて貰うぜ」
そう言うと、俺はお札の中から式神を呼び出した。