爆発
俺は陰陽師としてこの今までの人生を過ごしてきた。陰陽師を脱退してなお、俺の精神だけは自分は陰陽師だと認識していた。
しかし、この瞬間ほど自分がいかに妄想の世界の住人だったかが理解出来たことはない。
別に俺は、死ぬまで一般人を守ろうとする大人達の勇敢さを評価しているのではない。やっぱり俺は、恥もプライドも掟も捨てて、一般人を逃がすことが、真の正しい決断だと思うからだ。彼らのやっていることは、時間稼ぎの為ではなく、自身の名誉の為だ。自分の為に死ぬような連中は評価に値しない。
俺が痛感したのは、自分の無力さだ。俺は別に正しくあろうとか、住民を守るヒーローになろうとか、そんなスローガンを掲げたつもりはない。俺は俺の仲間を守る為に戦うと決めたからだ、間違っても住民ではない。だから、飛鳥とよつばが助かってくれるだけでも……いや、せめて部長や薬井とかにも生き残って欲しい。やっぱり、俺の目標も破綻か。
百鬼夜行としても、これで死人を出した、しかも一般人を巻き込んで。となると、鶴見以外のメンバーは、もう絶対に正義なんて口が裂けても言わなくなるだろうな。
俺は破綻、討伐隊も破綻、内の陰陽師の機関も破綻、百鬼夜行も破綻か。
何なんだよ、この誰も幸せにならない、デットエンドは。
基本、正義の味方ってのが、全滅したら悪の味方が世界を治めて、幸せになるんじゃないのかよ。
俺が甘かったというのは、こういう点だ。誰かが幸せになれば、誰かが不幸せになる。この世は全て足し合わせたらゼロになる。心の何処かでそう思っていた。全て、スポーツの様に、勝ちと負けでしっかり分けられているのだと。白と黒の世界だけで塗り固められていると思っていた。
世界はもっと、残酷な色をしていた。これが、現実の結末だ。
「飛鳥、飛鳥~~」
俺がもう訳の分からないまま、くだらない世間分析をしているうちに、既に飛鳥は御上の家まで到着していた。よつばは水色の小さい傘をさしながら、一人ポツンと路上に突っ立っていた。恐らく、俺と飛鳥が飛行中に、御上が連絡して外に出ておくように、連絡したのだろう。飛鳥と俺の姿を見ると、笑顔で手を振ってきた。今回の兼に対し、何も知らないようだな。
「何が起きたのじゃ、飛鳥? 焦った顔をして、父様から外に出るように言われたのじゃが? 何があったのじゃ?」
「説明はあとです。今すぐここを離れます。捕まってください」
そう言うと、飛鳥はまだキョトンとしているよつばを抱えると、一反木綿の俺同様括り付け、また空へと舞いあがる。飛鳥は途中参加であれ、鶴見牡丹とある程度交戦し、体力も限界のはずだ。疲れているのが、目に見えて分かる。息は上がりっぱなしで、肩も上下に動いている。
「飛鳥、俺の妖力を送りながら、行こう。その方がいいはずだ。よつばも手伝ってくれ」
「おぉ、それは構わぬが、あれは一体なんじゃ?」
そう言って、よつばが俺の向いている方向と逆を指さす。そこには、もう原型を遥かに超えた、遠目でもくっきり見えるほどの、超大型提灯が出来上がっていた。