手筈
一反木綿に浚われる形で、戦場を脱出した俺は、大空を上下に舞っていた。見渡すと、どんよりと曇った濃い灰色の空。戦闘していたので気にも留めていなかったのだが、かなり豪雨だったんだな。
「待て、諦めるって何だよ、諦めていい局面な訳ないだろうが、飛鳥!! 引き返せよ。あの爆発を止めなくちゃいけないだろうが」
「では、どうやってあの爆発を止めるのです?」
方法その①、大空のもっと上空へ持っていき、町に影響が出ない場所で爆破させる。だが、あの提灯野郎の爆破規模が分からない以上は良い案とはいえない。なお、宇宙まで持っていくなんて、出来ない。持って行った飛鳥が宇宙空間で死ぬ。いや、その前に持ち上げられるかが怪しい。
方法その②、山に落とす。俺の町は山岳地帯なので、海など近くにない。だが、山はいくらでもある。だから、そこまで持って行って、……森林火災、その土地の生物の生態系全滅、土砂崩れ、どの道何人か人も死ぬだろうな。そもそも、運べる重さなのかが怪しい。
「出来ない」
言っちゃった。
「いや、でもまだ何人かは救えるだろう。つーか、一般人に迷惑かけないの原則はどこにいった?」
「何人か救えるだろうという質問に対しては、よつば様をお救いするとお答えしましょう。他の陰陽師の皆様には、お命を諦めて頂きます」
「何でだよ、拾ってあげれば良かったじゃねーか」
「そんな訳にはいかないのです。本来、旦那様方の使命は一般の方々の命を危険に晒さないこと。それを、放棄したということは、守る側だった立場の旦那様方が逃げ出すのは、絶対にならないことなんです」
陰陽師とは、一般人に異能を隠しつつ、一般人を守らなくてはいけない。だからこそ、警察の用に、あからさまな動きが出来ない。一般人と極力関わらなく、鬼神スキルで記憶をいじって、秘密裡に仕事をこなす。これがいかに大変な仕事だろうか。だが、陰陽師には、一つだけ、義務付けされていない、正義の味方の必要事項がある。それは、一般人を逃がすという作業だ。
厳密に言うと、悪霊が出たから逃げてくれなんて、大衆に言ってまともに立ち会ってくれる人が、何人いるだろう。常識人であるほど無視に決まっている。機関の書物にはもっとちゃんとした理由が載っているらしいが、俺が知るかぎりではこんな感じだ。
だが、勿論。その分のペナルティは大きい。まずは成人していない陰陽師は、死ぬまで一般人の保護。及び、危険排除をする。一般人を置いて、逃げることなど全く許されていない。
「だから一般人を保護出来ないと判断した以上、私とよつば様と行弓君以外は……責任を果たさなければいけないのです。これが陰陽師としての、定めです」