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柔道

 陰陽師の戦闘において、式神がいなくなるというのは、敗北と全く変わらない。主な戦闘は全て式神が行い、鬼神スキルやその他の妖刀は、そのアシストや自身の防御にしか利用しない。それにしたって、式神から妖力を供給して初めて使えるものだ。バッテリーが無くなってしまえば、式神から供給しなくてはならない。つまり、式神のいない陰陽師など、土俵にも上がれないという訳だ。ちょうど火車と契約するまでの、俺の状態である。

 そのことを踏まえ、鶴見の式神、牡丹燈篭は最強だといえる。


 「だが、その作戦には弱点がある」


 俺は抱き着いてくる式神の着物の首のあたりを、思いっきり掴みこっちに引き寄せた。


 「俺、別に深い理由がある訳じゃないけど、学校の選択科目で剣道じゃなくて、柔道を選択しているんだよね」


 奴の動きといえば、あの真剣白刃取りを覗き、具体的な打撃技はない。単に抱き着いてくるだけだ。凄まじい圧力なので、攻撃としては充分成立しているのだが。普通の陰陽師はこの時点で、打つ手無し。ゲームオーバー。あとは気絶でもして解放されるのを待つしかないのだろう。式神を失ったなら、もう戦闘は負け戦なのだ。

 しかし、俺は違う。この式神は上手くいけば、陰陽師、いや一般人でも倒せる。


 「ただパワーだけで戦ったって、勝てると思うなよ」


 そのまま、奴の首を襟を思いっきり右方向に捻じ曲げた。それと同時に、奴の足を俺の足で引っ掛ける。柔道なんて授業、まともに先生の話など聞いてないので、この技の名前も知らないし、そもそも成功しているのかすら怪しいが、それでも牡丹燈篭は思いっきり、受け身無しでずっこけた。俺もそのまま奴の上に倒れこむ。雨が降っていて、地面が濡れていたのも、作戦成功の枷だったかもしれない。


 「うぐっ」


 軽い悲鳴をあげた、一旦俺の体から手が離れる。これがラストチャンスだ。俺は慌てて、飛び起きると直ぐに、全力で逃げた。ある程度、距離を取ったと思い、恐る恐る振り返ると、追って来ていない。立ち上がりはしているが、そこから一歩も動こうとしない。この後、火車を召喚して、バイクで逃げようと思っていたのだが。これは、いったい?


 取り敢えず、戦車から俺だけ降りた。奴は一体どうしたというのだ。式神が主の命令に背くなどあってはならないことだろう。俺の昔の式神は何一つ、言うことを聞いてくれなかったけど。いや、あの牡丹燈篭って妖怪、恐らく能力から考えて、陰陽師が捕獲不可能と認定した大妖怪だったな。そりゃ、いくら目的が合致しているとはいえ、俺みたいなアブノーマル陰陽師と戦うのは御免って訳か。そこまで躍起になって、鶴見牡丹の命令を守る必要なんてないって訳か。強い式神と条件付きで契約し、他の陰陽師を蹴落とす作戦に出た新機関、百鬼夜行。

 思わぬところで、作戦の穴が発覚したな。強い式神ほど、裏切りやすい、呆れやすい、扱いづらい。何事も両面性が存在するんだな。この世ってのは。


 「…………違う。私が愛したのは……………」


 何かが聞こえた、何て言ったかは分からなかったが、確かに後ろから女の声が聞こえた。もう戦車から降りたせいで、牡丹燈篭の姿は見えないが、見なくて正解かもしれない。霧が晴れていく。これでただの寂しい雨に戻ってしまった。

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