走馬灯
俺はとにかく束縛から逃げようとしても、無理なのは分かっていたので、助かる可能性の高い妖力吸収に力を入れた。一応、手応えはあるのだが、その鶴見のいう能力とやらが影響しているのか、火車に妖力を分け与えられない。それどころか、会話すら出来ない。まるで俺と牡丹燈篭以外の全てが、消えて無くなってしまった感じだ。先ほど、鶴見と会話出来たのは、能力の発動者だからだろうか? 奴だけは、別格なのかもしれない。だが、その方程式を仮説したとして、得られる推測は、奴は俺に攻撃出来て、俺は奴に攻撃出来ない、という絶望だけだった。
妖力吸収により、妖力を奪っている感覚はある。しかし、腕の力は一向に収まらない。そして、俺は他に入れた妖力が行き場が無くし、消えていくのが分かる。何故だ、なぜ妖力が空になってなお動ける?
その答えは、鶴見が居なくなった以上、確かめようがない。が、可能性としては二つ。
一つは妖力を式神自身の体で自供自足している。
もう一つは、奴も俺の妖力を奪っている。
「行弓様~」
気色の悪い声で、俺の名前を呼ぶ。声は飛鳥とはやはり全く違う。あんな笑顔を見せれば、俺が昔の飛鳥だと錯覚し、嬉しがるとでも思っているのか。もう飛鳥と俺の間に出来てしまった大きな溝は埋まらないというのに。
だんだん頭が痛くなってきた。目がぼんやりしている。体を締め付けられて、意識がおかしくなったのか。
こんな物を見せられたからって、悲しいだけだ。これが……こう俺に思わせ、苦しませることが、鶴見牡丹の真の狙いだとするのなら、許せない。許したくない。だが俺がどう思おうが、現状は変わらない。この呪縛が解けるのではない。
俺は飛鳥と二度と諦めないと約束した。だから、無意味だと思いつつも、必死でもがいている。でもきっと、俺は……。
「嘘つき」
そう聞こえた。誰の声かは、分からない。
「行弓君の嘘つき、嘘つき」
その声の目の前の式神であった。しかし、声が先ほどの骸骨と違う。これは本物の日野内飛鳥の声だ。
「一緒に立派な陰陽師になろうって言ったじゃん。自分だけ勝手に陰陽師やめちゃって」
いや、おかしい。飛鳥はこんな泣き言みたいなことを、俺には言わない。
「いっつも戦うのは私だけ。夏の暑い日も私は炎天下で修行で、行弓君はクーラーの中」
何を言っているんだ? この女の子は? 本物の飛鳥がそんなこと考えているはずがないだろう。
「それでも私は我慢したのに、最後の約束まで破ろうとしている」
それは一緒にいてやる、闘いからは逃げない、諦めない。これらのことだろうか?
いつの間にか、俺に抱き着いていた女は泣いていた。
「おいおい、諦めてねーよ」
泣いている少女に俺はそう言った。それしか、言えなかった。頭が冴えてくる、気が付くとまた飛鳥の幼少期の顔をした着物の女は、亡霊みたいに俺に寄りかかって、巻き付いていた。
「ああね、今のが走馬灯って奴かよ。なんて物見せんだよ、俺の脳内!!」
俺は腕に力を入れて、足を踏ん張った。引き離そうとした訳ではないが、体制を整える為だ。
「普通の陰陽師相手なら、無敵の能力だったかもな。式神との関係を断ち、一対一の体制に持ち込み、怪力で絶対に逃がさない。抱き着いたら発動する能力なんだろ? それ。討伐隊の連中もあんな戦い方になるわな、そりゃ。でもなあ、俺は特に何もしない陰陽師だ。そんな陰陽師相手に最強の能力が、俺にとっても最強の能力として発揮されるとは、限らないんだぜ」