濃霧
このまま戦車の上にいても、埒があかない。この濃霧からどうやったら脱出出来るか分からない以上、本体を狙うしかない。紳士として、あまり女性に攻撃するのは、気が進まないのだが、そんなこと言ってられない。
「火車、このまま動いて鶴見を押し潰せ!!」
そう叫ぶと同時に、自分は剣を握りしめ、元骸骨で幼少期の飛鳥の顔をした式神を目掛けて突進した。両方同時攻撃だ。自分を守りつつ、式神を守らなきゃいけない。仮に両方とも防いだとしても、必ず何かしらの隙が生まれるはずだ。
「行弓様、どうなさいました?」
パシッ、という良い音と共にまた真剣白羽どりされた。俺の斬撃ってそんなに取るに足らないの?
今度は、牡丹燈篭の方が動いた。俺に対する初めての反撃である。両手で剣を抑えている状態から、剣の刀身を握りしめ、血を流す。わずか五秒くらいで、剣は飴細工の如くこなごなに砕けた。お札の形状に戻り、真っ二つに割れ、地面にひらひらと舞い落ちる。やはりこの式神、パワーが尋常じゃない。
「行弓様」
その後、一旦下がろうとした俺を、逃がすことなく、全身で抱き着かれる。必死にもがいて脱出しようと頑張ってみたが、駄目だ。びくともしない。つーか、凄まじい圧力だ、このままだと潰される!!
そういえば、戦車による突進攻撃はどうなったのだろうか? 先ほどから、火車の起動は止まっていないのだが、衝突した衝撃がこない。かわされたのだろうか?
「違う、違うよ、行弓君」
そこには、今朝と同じ笑顔をしていた鶴見がいた。野郎、どうやってこの戦車の上まで登りやがった。待て、こうやって元気に姿を現したってことは、先ほどの攻撃は失敗ってことか。
「私の牡丹燈篭は独占欲が強くてねぇ、行弓君は主である私どころか、その他の人間には全く何もできないんだよ。君は私に攻撃も出来ないし、仲間に連絡も取れないし、牡丹燈篭を置いて他の人間を救いにも行けない。何もかも、ただ全ての動きが行弓君と牡丹燈篭のみの世界で成り立ち、そこに第三者は介入不可能になる」
なんだそれ、思いっきり1対1のバトルじゃないか。こいつを倒さない限り、脱出出来ないのかよ。
「ちなみに行弓君の式神も第三者扱いだから、一切なんの援助もないよ。だから、行弓君がいくら火車に命令しても、牡丹燈篭と行弓君に直接影響があることなら、キャンセルされる。そして、行弓君の命令による間接的な第三者への攻撃も、キャンセル。だからさっきの突進は、避ける、避けない以前に無意味だったってこと」
じゃあ何か、俺自身の腕っぷしのみで、この怪力骸骨を始末しなきゃいけないのかよ。抱き着かれた時に、頭にまず妖力を吸収するアイディアが思いついたが、火車に分配出来ないのなら、折角奪った妖力が体から垂れ流してしまう。さらに、なぜかこの骸骨は妖力が無くなっても、すぐ復活しやがる。
強い、討伐隊の連中が手も足も出ない訳だ。推測するに、鶴見牡丹のこの強さは、恐らく百鬼夜行に入隊したから身に着けた能力なのだろう。さっきの提灯お化けのみが、元々の式神ではなかったのだろうか? じゃあ百鬼夜行の組織としての強さも垣間見えたって感じだな。
「さーて、私は暇になりましたから、討伐隊の後始末に行きますか」
「ちくしょう!! 待ちやがれ!!」
「やーだよ、そこで自分の弱さを噛み締めるがいいさ」