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過去

 牡丹燈篭。その物語は現代でいう恋愛劇だ。

 本来の恋愛作品というのは、二人の幸せなシーンよりも恋の障害による逆境のシーンが多い。それは二人でその難を乗り越えることで、さらにお互いの絆が深まっていくという物語だ。最初から幸せで、結婚する直前までそれが保たれる作品なんて殆ど無い。ロミオとジュリエットが一番有名な代表例だろう。

 では、牡丹燈篭は一体どんな恋愛作品なのか。俺もあまり憶えていないのだが、確かある男性と女性が恋をする。両想いだったのだが、女性の方が不慮の事故で亡くなってしまう。周囲の人間はその男を慰めるのだが、その男は毎晩またその女に会っていると語るのだ。直ぐに怨霊と分かった周囲は男性に交際を止めるよう支持するが、結局後を追うように男の方も、女に呪い殺されるのだ。

 

 実らぬ恋というテーマは同じなのだが、何が一般的な恋愛話と違うのかというと、順序が逆な訳なのである。つまり、この話は先に苦しい経験をした後のハッピーエンドではなく、先に良い思いをしたあとのバッドエンドなのだ。女が死んでしまったのは、悲しいことだが、その後の毎晩、再開出来ていたことを考えると、一概にこの話は序盤に全く恋の障害などは発生しない。そのままずるずるいってしまった結果がこれだ。まあ、あの世で幸せになれたなら、それはハッピーエンドだろうと語る評論家がいるのだが、一回あの世を覗いてから言え、と陰陽師の俺が語る。

 じゃあなぜこのような物語なのか、答えは簡単。恋愛をテーマにはしているものの、本来この物語は怪談なのである。


 「って、じゃあ何で飛鳥が写るんだよ。訳分からねえ」

 一通り大筋の牡丹燈篭の物語を思い出し、げんなりした。俺の受けた呪縛が恋心だとしたら、なぜ、飛鳥が写るのだ? 俺は別に飛鳥が好きとか、そんなんじゃないぞ、誰があんな人形女……、待て。よくよく観察してみると、何か可笑しい。声が違ったり、着ている服が違う。そんなことは分かっている。だがそれ以前に、あの女はもっと決定的に違うものがある。笑顔だ、この女は先ほどから俺に飛鳥の顔を使い、微笑みかけている。しかもどこか、幼いような感覚が。


 「これが私の牡丹燈篭の能力だよ、行弓」


 いつの間にか戦車の下まで来ていた鶴見が言う。腕を後ろに組み、両目を瞑る。


 「どういうことだよ、これ」


 「だから、そこに写っている女は行弓君の人生の中で最も好きだった女の子だよ、過去の恋人と強制的に再開させる能力とでもいうのかな。まあでもこれで、橇引行弓敗れたり~、だよ」

 

 「ふざけるな、俺は敗北なんかしてねえ。こんな演出を目の前に出せば、俺が再起不能になるとでも思ったか」

 

 「いやいや、君はもう死んでいるよ。だって君はその霧の中から脱出することが出来ない。大人しく私の式神と恋仲になって、百鬼夜行の会員ナンバーを着けて頂戴」 

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