灯火
あちらに自分の居場所を知られたくない。そう思うのは、自分がどんな人間で、相手がどんな人間の場合か。
まず、気になるのは先ほどの鶴見の台詞、襲われたのはこれが初めてじゃないらしい。一般的な認識では百鬼夜行のメンバーはかなり強いとされている。最弱を語る鶴見であっても、ほんの少しの油断も出来ない、そう考えて当然だ。だから自分達の姿を隠しているのだろう。しかし、分からないのは、なぜ遠距離だけから攻撃してくるのだろう。あそこまで正確に、こちらをロックオンしているなら、鶴見が復活したのだって気づいているはずだろう。遠距離攻撃はもう、こちらが来ると分かってしまったので、防御されるのだから、さっさと接近戦に切り替えるべきだ。
距離を遠くするメリットは、相手と出来る限り接触せずに、逃げやすい姿勢で戦えることだ。しかし、両面性がある。遠距離で戦うのは、ある意味自分自身を危険にさらすことになる。簡単に遠距離の汚点を述べると、離れれば離れるほど命中率が下がる、威力が下がる、防がれやすい。そんなところだ。
陰陽師にスナイパーなんて役職はないが、陰陽師が遠距離で戦うのは珍しくない。有名なのは、結界である。集団でターゲットを囲み、仕留める。この前、飛鳥が火車を変身させた戦車に行ったあれだ。
「相手は五人くらいですか」
そう言いつつ、俺がまだ見たことのない模様のお札を取り出す。
「牡丹燈篭!! 提灯お化け!!」
飛び出てきた二組の妖怪。片方は、馴染み深い奴だ。提灯お化け、提灯の上下がパックリと割れ、そこから舌がべろっと出ている。なんかへの字をした大きい目をしており、可愛らしさすら感じる。登場時は、自力で空に浮いていたが、すぐに鶴見が提灯の頭の上の取っ手を掴んだ。
可愛くないのはもう片方である。何というか、完全に骸骨。中学校の理科実験室とかに置いてある、骸骨そのまんまだ。その骸骨が着物と簪を着けて……こっちは自力で立っている。
「追え」
その華麗な一言と共に全速力で空を滑空し始めた二体。おい、骸骨。空飛べるのかよ。
いや、待て。追えってどういう意味だ。まるで相手が戦闘放棄して逃げたみたいな言い方じゃないか。
……その時俺は理解した。討伐隊が行った行動の全てを。
奴ら、もしくはその仲間が、既に何回か鶴見と交戦していた。そして決して正面からでは勝てないと思い知ったのではないか、鶴見が圧倒的に強すぎて。
「火車!!」
俺は雨の中、道の真ん中で大声で叫んだ。どうせ討伐隊の連中が人払いは完了させてくれているだろうから、問題ない。すぐさま、バイクモードに切り替える。
俺は飛鳥と戦った時にまず逃げた、勝つチャンスを伺う為に。討伐隊も同じ気持ちじゃなかったのだろうか。正攻法では勝てないから、遠距離から一発で仕留める以外に方法が無かった。倒せない可能性を考えて、あとは逃げるしかなかった。
つまりそれ程までに、鶴見牡丹は強いということだ。