復讐
「お前は式神を解放するという理由で、他の流派の陰陽師を襲うことを間違っていると言った。だけどさ、俺は自分の過去の悔しさで、他の流派を襲うことも、同じくらい間違っていると思うんだよ。お前の気持ちが全く分からない訳じゃない。でも、それを肯定も出来ない」
式神を解放するという理由は、まだ戦う理由としては、正当性を感じる。だって、少なくとも自分の為に戦う訳じゃないからだ。しかし、復讐は完全に自分の為に戦うことだ。それが必ずしも悪いこととは言わないが、やはり戦う理由としては尊重出来ない。
その言葉は別に、鶴見から戦闘意欲を削ごうと思って、計画して言ったのではない。俺の率直な彼女に対する感想であり、本気の俺の答えだ。
「……大人だね、行弓は」
行弓と呼び捨てで、呼ばれるのは珍しい。
「違うよ。現実に冷めているだけさ。いや、諦めているって方が正しいかな」
あっ、諦める。これはもうしないって飛鳥と約束したんだった。慌てて言い直した。
「昔はな。だけど今の俺は違うぜ。俺は俺のやり方で、陰陽師として恥なくていい生き様をする。復讐なんて俺の柄じゃない。俺は俺の守りたいものを守る、その為に戦っている」
最前線の敵に対し、発表することではない気がするが、それでも百鬼夜行の誰かに俺とは一体どんな陰陽師なのかしっかり言いたかった。
「俺は橇引行弓。特に何もしない陰陽師だ。何者にも囚われず、自分のやり方で生きる。それがこの世で特例で最弱なこの俺の存在理由だ」
その時だった。雨音の激しい中、弾丸のような轟音が響く。
「危ない!!」
なんと先に動いたのは、鶴見だった。俺を両手で突出した。折り畳み傘は放り出され、地面に転がる。俺は思いっきり無様に、肘から地面に転げた。
「鶴見!!」
慌てて、顔を上げる俺。しかし、そこには胸から血を流し、朦朧とした目をしていて、辛うじて立っている。だいぶ虫の息だ、呼吸が荒い。
「おい、どっからだ!! ちくしょう」
ぐったりした鶴見胸に抱え、地面に両膝を着く。攻撃、一体誰が?
馬鹿か、俺は悩むことかよ。鶴見が言っていたじゃないか。皆、敵だって。百鬼夜行の残りの奴だろうが、討伐隊の連中だろうが、うちの陰陽師の幹部だろうが、可能性はいくらだってあるだろう。完全に不用心だった。
「……逃げて」
泣きそうな顔で鶴見は、俺の手を握った。
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