本題
「そろそろ茶番は止めてくれ、お前は一体何をしに俺の前に現れた? どうして他人の式神を襲う?」
鶴見は不機嫌そうな顔したが、俺が真剣なことに気づいてくれたのか、ようやく真面目な話をしてくれた。
「質問は一つにして。まず誤解があるようだから修正させて。私は確かに百鬼夜行の陰陽師で、ある程度メンバーとして、協力もしているけど、関係ない他の陰陽師を襲うなんてことはしていないし、別に式神を解放しなきゃなんて思っていない。リーダーの妖怪と陰陽師は寄り添い合うべきだって考えはすごく賛成だけど、だからそうじゃない人達を無差別に傷つけるのは、間違っていると思っているの」
これは以外だ、てっきり俺は他の流派の陰陽師を襲う行為は、メンバー全員でやってると思っていた。但し、この本当の事を言っているのならばの話だが。俺に同情心を煽らせるのが目的で嘘を言っている可能性もある。
「私は百鬼夜行の中でも最弱なの。家族は全員、普通の人だし。強い妖怪と契約している訳じゃないし。平均くらいの普通の陰陽師だよ、私は。ただ誘いがあったから、なんか楽しそうで入ってみただけ。それがまさかあんな乱暴な人達だったなんて」
なんの特徴もない平均くらいの力の陰陽師を、あの百鬼夜行が雇おうという発想になるとは考えにくいが。……でも、俺を誘おうとするのを見る限り、百鬼夜行はスカウトの基準を強さとかで判断していないのか、にしても鶴見が全く何の特徴もない、普通の陰陽師とはやっぱり考えにくい。
「実は本当は百鬼夜行の陰陽師であるのが怖いです、他の陰陽師は全て敵みたいな関係になってしまったし、リーダーは優しい人なんですが、他の仲間の皆さんは弱くて、使い物にならない私を、明らかに軽蔑しているし。もう私には味方と呼べる人なんていないんです」
さっきまでの態度は空元気だったのか、確かに彼女から強い妖力はほとんど感じない。それになんだか震えているようにみえる。真面目に陰陽師の話を始めてから、声が霞んで聞こえる。
「そんな時にです。リーダーから私に一つの命令が入りました。橇引行弓という名の脱退陰陽師をスカウトしてきてくれと。貴方のプロフィールを拝見させて頂きました。……初めてです、私より不幸っていうか、悲惨な人なんですね」
うるせーよ、最弱で悪かったな。だいたい文字やグラフだけのデータだけで、俺の全てが分かった気になってんじゃねーぞ、と言いたかったが、話の腰を折りたくなかったので、黙っていた。
「私だって陰陽師だったから、地元の上司から妖怪を道具として扱うように育てられました。なぜ妖怪を道具として扱うのか、そんな疑問を抱く隙もないくらいに。でも私は漠然と思っていたんです、可哀想だって。それは私達のような、家系的に陰陽師を受け継いだ訳ではなく、我々もまた奴隷のように働かされたからだと思います」
……それは、考えたことがなかった。
確かに俺も、御上や他の幹部連中からさんざん苛められた。同じ境遇だったから、というのが原因で俺は妖怪達と友達になったのかもしれない。
「でも私達は体も大きくなりました。もう大人と対して変わらないだけの妖力を持っています。もう昔ほど私達を縛れないはずです。だから私はこう考えます。今こそ復讐すべきだと。支配する側の人間に、操られるという行いがどれほど怖い物なのかを、しっかり理解させなきゃいけないと。……そうは思いませんか? 橇引行弓さん」
確かにこんな発想が浮かんだことは、幾多もあった。大人になったら、復讐してやる、俺はこの言葉を毎日のように言っていた。陰陽師を止め、高校生になり、そんな感情はどこかへ行ってしまったが。彼女の言葉が理解できない訳じゃない。
復讐からは何も生まない、それは只の綺麗事だ。実際、復讐は人類の歴史の中でかなり意味があったと思う。
……しかし、この場合は。