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雨傘

 今度は一体何なんだ、鶴見牡丹。さっきから俺を完全に無視してやがったくせに、こんな中途半端なタイミングで登場しやがって。辛うじて自分の心を抑えて、平常心でただ観察作業のみを行っているが、本気を言えばもう早く戦いたいってのが、今の気持ちなんだ。

 このまま、緊張状態が続いたって俺の精神が磨り減るだけ、それよりも早く戦って、早く楽になりたいんだ。

これでも陰陽師の端くれだっていう、変なプライドが邪魔をしているだけで、俺は正式には陰陽師として認められていないのだから、傍に一般人がいようが、余裕で戦えるんだぞ。


 「何か俺に用事か」


 俺は鶴見を睨み付けながら、出来るだけ低い声で言った。そんなに大声ではなかった為、鶴見本人を除き、隣で立っていた薬井くらいにしか、聞こえなかっただろう。


 「えっとね、次の授業が体育だから、そろそろ教室から出て行って男子更衣室に行ってくれないと。間に合わないよ。それとこの教室はそろそろカーテンを閉めて、女子が着替えに使うらしいから。お着替え見られたくないんだけどな」


 「行弓氏、自分も一緒に男子更衣室に行こうと思い、誘いを掛けていたつもりだったのですが」


 …………すっかり、忘れてた。よく見ると、教室内に全く男子生徒がいない。

 

 「すいません、直ぐに出ます」


 なんか、やっぱり俺は空回りしている。


 

 結局、終礼まで鶴見は行動を起こさなかった。強いて変だと思ったのは、鼻の下を長くして近寄ってくる男子を完璧に無視したり、ってそんなとこだ。つーか、内のクラスの男子、大胆すぎるだろ。天晴れすぎる根性だ。


 「どうしよっかなー」


 一日、敵を監視しておくというのも、意外に体力を奪われるのものだと知った。もう御上に後は任せて戦闘パートになったら、また場面に復帰しよう。まだ何も起こっていない段階から、神経質に職務に没頭するなんて、俺のイメージに反していたぜ。俺は俺らしく、この危機的状況に臨むとしよう。


 校舎から出ようとしたら、雨が降っていた、俺は外で雨が降っていることに気付かないほどに、頑張っていたのか。だから今日の体育は、急遽体育館でバスケットボールになったんだな。天よ、お前も泣いているのか、俺も心の中が咽び泣いているよ。予め、用意していた折り畳み傘を鞄から取り出し広げる。周りには人が少ない、皆部活があるのだろう、俺は今日は修行の為に、早く帰るが。つーか、敵はもう姿を現しているのに、修行するのかな。


 その時だった、後ろから何者の気配を感じる。何者かが俺に接近してきている。しまった、あれはまさか、鶴見牡丹!! 俺を真っ直ぐ見ながら、こっちに走って来るではないか。なるほど、ようやく放課後になって一般人から縛られる時間が終わり、俺と対決出来るという訳か。何を弱気になっていた、俺!! 本当に気を引き締めなくてはいけないのは、この瞬間からだっただろうが。


 鶴見は突然、まだ玄関の近くで突っ立っている俺の前で足を止る。自分でしっかり分かる、俺は最大まで緊張している。これが俺と百鬼夜行との、初陣だ。鶴見は、そんな俺に対しこう言い放った。


 「ごめん、傘を忘れちゃった。一緒にその傘の中に入れてくれない?」


  一瞬、ずっこけそうになった。

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