観察
この後の休み時間までの間、俺はずっと鶴見牡丹を観察していた。一般の転校生らしく大人しい素振りで授業を受け、特に目立った点はなかった。俺にも朝礼のあとからは、攻撃どころか、念力すら送ってこない。ただ一つ分かるのは、彼女は内のクラスに積極的に馴染もうとしていない。まるで自分から避けている感じがする。別にクラスメートに質問されたときに無視するとか、そんな大それたことをしている訳ではないのだが。まあ転校初日でべらべらと話して回るのも、変だが。彼女の自己紹介を受け、俺が警戒しすぎているのか。
「行弓氏、やはり彼女のことが気になりますか」
じっと、自分の席で一人サンドイッチを食べてる鶴見を観察するため、俺も自分の席に一人で手作り弁当を食べていると、例の眼鏡が馴れ馴れしく話掛けてきた。なんか楽しそうというか、わくわくした顔をしている。
「今日からずっと鶴見氏のこと見つめてますよね、やっぱりお二方はそういう関係ですか」
「……お前、誰だっけ?」
「え? 冗談でしょう、行弓氏。薬井竜太郎ですよ。知らなかったんですか」
あぁ、そうだったそうだった。完全に忘れていた。
「やっぱり、さらうとか宣戦布告しやがって。何の動きも無いじゃないか」
奴は朝礼からずっと俺を見ようともしない。やる気があるのか、ないのか、そこからしてよく分からない。百鬼夜行の陰陽師とはいえ、陰陽師の基本概念である一般人に迷惑を掛けないを真っ当してくれているのだろうか。それともただの気まぐれか。それともこれからの作戦の準備でもしているのか。
因みに授業の間の休み時間に御上に鶴見のフルネームをメールで送信したところ、そんなことはもう知ってるって返信してきた、だったら始めから情報をシェアしろや、って気にもならなかった。
何なんだ、さっきから。俺ばっかり真剣に考えて、俺ばっかり気合い込めて警戒して。なのに俺の周りの環境の連中ときたら、何だあのやる気の無さは。何かもう、俺だけ一生懸命になって、馬鹿みたいじゃないか。
もうすぐ休み時間が終わる。
「飛鳥の教室に行きたかったな」
そう何となく呟いた、こんなに張り込むことの必要性が無かったのならば、飛鳥の元に行って、この前の模擬戦の正式な謝罪に行きたかった。
「行弓氏、ちょっと宜しいですか」
何だよ、薬井。お前の名前くらい憶えても、直ぐに忘れるって。まあそう思いつつ、振り向いてやると、そこには……薬井と並んで立つ、鶴見の姿があった。しまった、ちょっと目を離した隙に、接近されてやがった。
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