自己紹介
さらいにきたよ?
クラス中の生徒の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「橇引氏、彼女とは一体どういう関係ですか?」
質問したのは、さっきから俺の事を橇引氏などという不思議な相性で呼ぶこの眼鏡をかけた男なのだが…名前なんだったっけ? まあいいや。
「そうだな、明確に言い表すと、敵だ」
俺は結構、嘘が苦手だ。よく都合が悪い時に嘘をついたり、誤魔化したりしようとするのだが、すぐにばれる。だからさっきの質問に対し、知らないとか分からないとか、忘れたとか気の利いたことを言っても、必ずボロが出る。だから限りなく正しいことを言った。
「いや、元カノなんですか?」
何だ、この眼鏡。まだ質問を続けるつもりか、何だよ元カノって。
「違うよ、俺はあいつに会うのは今日で初めてだぞ」
「初めてって、じゃあ何で敵なんですか? 橇引氏は美女が嫌いな性分ですか」
「別に、ただ俺とあいつは敵同士で、戦う運命にあるってだけだ」
「……橇引氏、保健室へ向かうことをお薦めします」
あれ、何だろう。正直に答えすぎてだんだん状況が悪化していっている気がする。
そんな俺達を捨て置き、先生が黒板に名前を書いた。
鶴見牡丹。それが彼女の名前らしい。あとで、御上に報告しなくては。
「鶴見牡丹といいます。よろしく」
鶴見とやら、意外にも他のクラスメートには愛想を垂れる素振りもなく、なんかさらっとした口調で自己紹介を済ませた。先生が指定した席に座ろうとする前に、また俺に手を振ってきた。なんか癪だったので取り敢えず顔を背ける。何なんだ、あいつ。あんな態度をすれば、俺が素直に釣られるとでも思っているのか?
だが、奴は俺とどうしてもコンタクトを取りたかったらしい。今度は念力を送ってきた。
「橇引行弓君、はじめまして。百鬼夜行のメンバー、鶴見牡丹です。よろしく」
「どの面下げて自己紹介してんだよ。日本中の陰陽師を襲っている噂を俺が知らないと思っているのか」
「うん、まあ私とは関係ないし」
なんか、追継や飛鳥とはまた違う底知れない怖さをこの女から感じる。