通話
バイトきつい。
俺や飛鳥のようにごく稀に、家族が陰陽師でなくとも、幼少の頃に妖力を付与されることで、陰陽師になれる特例がある。だが実際は陰陽師なれる可能性はかなり低い。下手をすれば俺のような出来損ないを量産する。誰でも陰陽師になれる訳ではない。こればかりは本当に才能の問題なのだ。
「あいつがこの町にやって来た理由が、親の転勤なんだ。お前の娘は他の流派の陰陽師だから、入場を許可しないなんて言える訳がないだろう。奴の両親は子供が陰陽師であることすら知らないらしい。お前の両親がお前が陰陽師であることを知らないようにな。まあ、お前はもう陰陽師ではないか」
いいや、違う。特に何もしない陰陽師だ。よって、陰陽師である。
さて、百鬼夜行のメンバー、なかなか策士である。陰陽師の基本鉄則、一般人を巻き込まないを上手く逆手にとっている。これでは、迂闊には手が出せない。合法的にこの町で生活するとなると、そいつの生活にあまり派手に干渉すら出来ない。理由は奴の取り巻く環境にいる一般人に迷惑を掛けられないからということだ。
「どうしましょうか、御上さん」
「そうだな、まずは奴が一人になるタイミングを見計らって、仕留める」
随分と簡単に言ってくれるが、正直難しいのではないか。だって相手は間違いなく俺達がこういう状況に追い込まれることを、想定しているはずだ。それをわざわざ、自らの手で作戦失敗に持っていくことはないだろう。むしろ俺達が、ある程度少人数にばらけた時に、狙い撃ちされることの方が考えられる。いまこの町にいるという、そいつの実力がどれほどのものか知らないが、もし先生を襲ったといわれる奴の場合、ベテラン六人くらいなら突破出来る実力があるのだ。まず一人に追い込むのが難しく、そして倒すことが難しい。そしてさらに、大きな問題が。御上はすっかり忘れている気がするのだが、今回狙われているのは俺だ。つまり俺が一人になった時に、狙い撃ちされる可能性が一番高いじゃないですか。やべぇ、ようやく自分の置かれている立場を理解した俺であった。
「お前は何もしなくていいから、敵を発見し次第、飛鳥にでも知らせろ。以上だ、健闘を祈る」
「待て待て、そいつの特徴とかは? もっと伝えるべきことがあるでしょう」
「だからもう陰陽師じゃないお前を、極力巻き込みたくないんだ。察せよ、全く何の役にも立たなかったクソ餓鬼が。いいか、一回しか言わねえぞ」
なんかすごい理不尽な気がするけど我慢して、情報を聞こう。
「女だ、学生だろう。以上だ」
「それだけかよ、そんなアバウトなデータが何の役に立つって言うんだよ」
「しょがねーだろうが、俺達だって昨日に引っ越し風景を拝んだだけなんだから」
全く何の役にも立たない大人達め。
「とにかくお前を狙ってくるから、狙われろ。お前は囮だから。しっかり逃げ回れよ、じゃあな」
それだけを言い残すと、御上は一方的に通話を切った。