監視
ついに百鬼夜行の一味が現れたか。早く来て欲しいなんて心が一瞬にして消え去る。俺の心の中に不安と緊張が渦巻いた。気になるのは、潜入者の容姿や特徴である。
まだ朝礼まで時間があることを確認し、慌てて教室を飛び出した俺は、急いで階段を上がる。百鬼夜行の連中の目的は妖怪の解放である。しかし、それとは別の理由で、俺は狙われているのだから。校舎の屋上に到着すると、ポケットから携帯を取り出し、御上との通話を始めた。うちの学校の屋上は、広さは十分にあるが、これといって珍しいものはない。朝の時間は誰もこの場所に来ない為に、御上と連絡を取り合うには、最適な場所だ。
「もしもし。御上さん、侵入者が現れたってどういうことですか」
「そのままの意味だ。恐らく百鬼夜行の一人と思われる人間がこの町に入ってきた」
御上の野太く、ひどく冷静な声が携帯から聞こえる。
「そんな、結界はどうしたんですか。まさか破壊されたとか」
「貴様と違ってそんな失態はしない。別に結界が壊された訳でも、監視の目に侵入者の姿が映った訳でもない。ただ、俺達の流派あてに脅迫文が届いた。それだけだ」
脅迫文か、相手は何人か知らないが、随分と腕に自信があるようじゃないか。それ以前にちょっとおかしい点がある。御上は俺に対し、さっきメールで侵入者が現れたと記した。しかし、脅迫文のみならまだこの町に侵入しきっていない可能性もあるだろう。現れたって、とういう意味だ?
「あの……御上さん。その手紙っていつ届いて、いつ確認したんです?」
「昨日だが、それが何か?」
おい、ふざけるな。そういう大切な情報は早く伝えるべきだろ、何やってんだ。と、言いたいところだが、俺はそもそも陰陽師の機関を脱退しているので情報を貰えなくて当然か。こんな危機的状況で、この設定が生きてくるとは。陰陽師を辞めたという俺の行動は、今になってかなり裏目にでている。
「それで何で今日になって、俺に連絡したんです?」
「貴様に伝えずとも、こちらの監視部隊だけで事を済ませようと考えていたからだ。今のお前は一応陰陽師の扱いでは無い。だから俺達はお前を一般人同様に守る義務がある。それもお前が何も知らない形でな。だがそんな都合の良いことを言える状況じゃなくなった。さっきも言っただろう。敵はこの町に既に侵入を完了させている」
分からない、だって陰陽師が結界を壊さずに、監視の目から逃れ、町の中に侵入するなんて、どんな高レベルなステルス能力を持っているんだって話になる。
「違うんだ、俺達は陰陽師であるが故に、対処を間違えたんだ」
いつにもなく、覇気の感じられない御上の声に、俺は驚きを覚える。
「あいつは特殊な能力などを利用して侵入した訳ではない。もっと合法的に侵入した。関係の無い一般人を利用したんだ、肉親というな」