規則
ようやく曇が晴れた気分だ、爽やかな気分で害虫駆除ができる。
「さぁ、覚悟して貰うぜ。女王様よぉ」
「若造が、ただで済むと思うてか」
どうすることも出来ねーよ、お前には。今の俺は人生のなかで一番に輝いている状態なんだ。お前に負ける道理がない。夜幢丸は俺と闘うって決めてくれたんだ。陰陽師と妖怪が別行動して個々に戦うより、連携して戦った方が強いに決まっている。姿が見えない必要なんかないのだ。
夜幢丸が俺を摘まみ上げ、俺を肩の鎧の上に乗せた。これで運命共同体。夜幢丸が死ぬ場合に、俺も死亡確定だ。だが、これほどで丁度いい。恐怖と勇気は紙一重だから。同じ目線に立たなきゃ勝利を得られない。
「おぉ、よく見えるぞ。我が息子の夜幢丸。貴様ほどの災禍がどうして人間の傍らを担おうとする。その男は貴様を封印した忌々しい陰陽師の子孫じゃないかい」
「……私は、災害なんかじゃない」
そうだ、悪い人間ってのはどこかで、良い人間になりたいと思っている。落ち零れはエリートに成りたいし、劣等生は優等生になりたいんだ。肩書きと周りの人間の価値観で外堀を埋められるから、脱却できなくなるだけだ。
「自分のイメージを覆す。それが戦いだ。お前のような自分の殻に閉じこもっているだけの馬鹿野郎には、こいつの崇高さは気がつかないよ。駄目な人間が、失敗した人間が、真逆の夢を抱いて戦うんだ。勧善懲悪じゃない、悪が悪を裁く」
主人公を根底から否定しながら、主人公のような真似をする。正義を掲げず、悪を裁く。多勢を助けず、守りたい者を守る。これが『批判家』の戦い方だ。
「思い知れ、くらぎ。お前の敗因は”発想が柔軟じゃなかった事だ”」
勝負は一瞬で決着がついた、くらぎの憤怒の特攻は俺達には届かなかった。夜幢丸の容赦のない一刀両断が奴の体を真っ二つに切り裂いた。反撃を許さず、奴の体を二分割する。その黒い鮮血と共に、くらぎは左右に散っていった。妖怪は死なない、これで倒した事にはならないだろう、でも暫くは封印されるだろう。
「世間ではこれをダークヒーローって言うんだ。生まれ変わったら、記憶の片隅で思い出すんだな」
★
終わった、死ぬ覚悟で挑んだこの戦争は、勝利に終わったのだった。って聞こえはいいが、結局は陰陽師本部が完全崩壊。町ごと全ての存在が消えた。残ったのは血まみれの御門城だけだ。地方の陰陽師機関が崩壊していくのは時間の問題だ。誰も俺が阿部清明の子孫だなんて、信じて貰えないだろうし、本当にまた戦国時代だな。戦いはこれからも永遠に続くというわけだ。
「浮かばれないな。あんな大怪獣を倒しても……俺が世界を救ったとは思って貰えないわけだから」
「主殿、それをご本人で言ってしまうと全てが台無しというか、まるで目立ちたくて戦っていたように思えるというか」
「はぁ? 当たり前だろうが。俺は目立ちたくてしょうがないんだよ」
それでも面来染部の愛人だったらしい河野壱絵の仇討ちや、松林の野望の阻止はしっかり出来た。これで一先ずは一件落着と思いたいな。
「お礼なんて言いませんよ。君が奴らを倒しても……彼女の命は帰ってこない」
「分かっているよ、俺が自分の因縁の一つを終わらせただけだ。俺のした罪は消えない。だから……まだ戦うよ。平和主義者として、陰陽師機関のリーダーとして、もう二度とあんな悲惨な出来事を招かないために」
「おや? リーダーの素質がないのでは?」
「知るか!!」
ここにいるのは、負け犬の後継者はぐれと、悪霊と、未確認妖怪と、世界を恐怖に陥れた妖怪。最悪のメンバーだな、誰が聞いても馬鹿四人組だよ。陰陽師の世界を救うなんて烏滸がましいにも程がある。侵略戦争と間違われるかもしれない。だが、闘う事を止めるわけにはいかない。この世界の崩壊を止めるために。
「さぁ、ここからが俺が規則だ!!」
ご愛読、ありがとうございました。
本日にて完結でございます。
こんな長編に付き合って下さった皆様に感謝しつつ
笑顔で終幕とさせて頂きます。
これからも小説家としての、活動を邁進しますので
今後とも太刀風居合をよろしくお願いします