戦士
こんな能力は認めない、俺が目指す戦い方じゃない。こんな圧倒的な力で勝利を収めたとしても、何も変わらない。
「聞こえないのか、夜幢丸!! お前は今から俺の言う指示で動くんだ」
夜幢丸がこっちを向いた、奴は今なにを考えているのだろうか。俺が奴の主人なんて認めない、自分を昔に封印した奴の子孫なんて協力する義理はない。このまま戦えば自分は自分の母親を殺す羽目になる。俺に協力する義理なんぞないだろう、いや心底戦いたくない気持ちでいっぱいだろう。
「なにを考えているんです!? 相良十次!? このまま戦えば奴を倒せます」
まったくその通りだ、俺が視界を失う事の何が問題だろう。夜幢丸自身が敵に見えない存在である方が、絶対に優位に戦いを進められるに決まっている。奴に指示をしたいなんて、それこそ俺の利己的な自己満足だ。俺のやろうとしていることはあらゆる面で理にかなっていない。
「だからってこのまま戦って勝てるってのは、保証できないだろう。夜幢丸はこんな戦いを望んでいない。奴は俺の命令に従っているのではなく、目の前に襲い来る敵に、対抗しているだけだ」
俺の支持を待たずして攻撃を開始したのは、奴が『くらぎ』を敵と認定したからだ。どうやら親殺しという精神は奴にはないらしい。まあ、俺の取り越し苦労だろうか。それでも奴の気持ちが分からない事にはどうしようもない。
「さぁ、なにか言葉を発してみろ。夜幢丸、お前の気持ちを教えてくれ」
妖怪を大切にする、妖怪と共に闘う。それは橇引行弓の先輩特許ではないのだ。自慢ではないが、俺だってその気持ちを持って、今まで批判家として戦ってきたんだ。何でもいい、夜幢丸を説き伏せさせろ。俺の血の中に含まれている阿部清明とやらの血統とかで、構わない。
「夜幢丸!!」
「たたかいたい……」
奴の鎧からそんな言葉が聞こえた。戦いたい……こんな言葉をいうのか、奴は。
「長年、封印されていた。退屈だった。だから戦いたい。私は安倍家の物に無様に敗北した、だから戦いたい。この世の万物全ての強者と剣を交えたい。それが私の望み……。私の目的などそれだけだ」
戦闘狂、それがやつなのか。意味があって戦闘をするのではなく、戦闘自体が闘う意味になってしまう。自分より強い者を葬る事が、唯一の誇りにして、快楽。
「戦闘狂だったのですか」
「これは俺も予想外だった」
奴が大昔に暴れた理由も想像がつく。奴は誰かが苦しむ姿などどうでもよかったのだ。だから直接に天下のお膝元へと襲撃した。小細工なしに最強軍隊にったった一人で向かっていったのだ。夜幢丸、お前は…正義の味方でもなく、悪も味方でもない。ただの戦士だったのだな。
「この魂尽きるまでこの剣を振るうのが我が生き様。妖怪になろうともそれは同じ。敗北を味わったまま、生き様を晒すなど、我が武士道に反する。この世で天下を示さねば。我が覇道を示さねば」
あいつ好き勝手いやがって。お前みたいな精神の奴がいるから、戦争が無くならないんだよ、なんて事を考えている場合じゃない。
「よし、分かった。お前の意見を尊重しよう。これから俺は”天下”を取りに行くつもりだ。今世代の指揮官であった阿部清隆が死亡した以上は、これから戦国時代の幕開けだ。俺はそこの一匹の陰陽師として旗を掲げる。ここの目目連と、悪霊の面来染部と、そして夜幢丸!! お前も俺の仲間だ!!」
……支離滅裂だっただろう。でもこれが俺の精神だ。これが俺の決めた規則だ。俺が生きていくべき道だ。俺が本当にしたい事だ。
「安心しろ、これから日本中の陰陽師とのバトルの毎日だ。俺が新しい陰陽師機関のボスだって、全員が納得するまで闘う。俺が『二代目、阿部清明』だ!! だからお前の力を貸してくれ!! 俺が死ねば、お前はまた封印の世界で永久冬眠だ!! お前に選ばせてやる、俺と戦うか、また目覚めを待つか」
奴の封印されていた期間はあまりに長い、俺を失えば奴の妖怪としての実態はない。いわば運命共同体、ならば俺も奴の運命を背負う義務がある。視界が復活してきた。さっきまで見えていた風景が取り戻してくる。無様に転倒している『くらぎ』の姿も見えた。目目連も、面来染部も。
「よいでしょう、ならば行く末までお供しまする。我が覇道を切り開いてくだされ。若き陰陽師様よ」
「あぁ、そのつもりだぜ。まず初陣を飾るために、そこの害虫から駆除しようか」
次回、完結!!